猫の口内炎は若いうちの治療が重要です

「よだれが増えた」
「ごはんを食べたそうなのに食べられない」
「猫エイズ陽性だから治療が難しいのでは?」
猫の慢性口内炎(FCGS:Feline Chronic Gingivostomatitis)は、強い痛みを伴う病気です。
特に猫エイズ(FIV)陽性の猫では発症率が高く、重症化することも少なくありません。
今回は、猫エイズ陽性の3歳猫に対して全臼歯抜歯を行った症例をご紹介します。
症例紹介|3歳 MIX猫(猫エイズ陽性)

今回の患者さんは3歳の猫ちゃんです。今年に入ってから
- よだれ
- 口臭
- 食べづらそうな様子
- 口を気にする素振り
といった症状が認められていました。
口腔内を確認すると、
- 臼歯後方の強い発赤
- 粘膜の増殖
- 接触時の疼痛
が認められ、猫の歯肉口内炎(FCGS)と診断しました。
また、検査では猫エイズウイルス(FIV)陽性であることも確認されていました。
猫エイズと口内炎の関係
猫エイズ(FIV)に感染している猫は、
- 免疫機能の異常
- 慢性的な炎症反応
が起こりやすくなります。そのため、
- 歯周病
- 歯肉炎
- 慢性口内炎
などの口腔疾患を発症しやすいことが知られています。
ただし、「猫エイズだから治らない」というわけではありません。
実際には適切な治療によって症状が大きく改善するケースも数多くあります。
なぜ抜歯が必要なのか
FCGSでは、歯に付着するプラークや細菌に対して免疫が過剰反応していると考えられています。
そのため内科治療だけでは改善しないケースも多く、原因となる歯を取り除くことが治療の中心になります。
全顎抜歯と全臼歯抜歯の違い
猫の口内炎治療では、
- 全顎抜歯
- 全臼歯抜歯
の2つが選択肢になります。
全顎抜歯
切歯・犬歯・臼歯をすべて抜歯する方法です。
炎症のコントロール率は高い一方、
- 手術時間が長い
- 抜歯本数が多い
- 顎骨への侵襲が大きい
という側面があります。
全臼歯抜歯

臼歯のみを抜歯し、
- 犬歯
- 切歯
を温存する方法です。
口内炎の炎症は多くの場合、臼歯周囲の歯周組織に関連しているため、全臼歯抜歯のみでも高い改善率が期待できます。
当院では、
- 炎症の範囲
- 年齢
- 基礎疾患
- 麻酔リスク
を考慮しながら治療法を選択しています。
本症例では、
- 炎症の主座が臼歯部であったこと
- 若齢であること
- 犬歯・切歯の保存が可能であったこと
から全臼歯抜歯を選択しました。
若いうちに手術するメリット
猫の口内炎治療では、実は年齢も非常に重要です。
高齢になると歯根と顎骨が癒着するアンキローシス(ankylosis)が起こりやすくなります。

アンキローシスが進行すると、
- 抜歯時間が長くなる
- 顎骨の切削量が増える
- 顎骨骨折リスクが上がる
- 手術侵襲が大きくなる
といった問題が生じます。
若齢猫では歯根構造が比較的保たれているため、
- 抜歯がスムーズ
- 手術時間が短い
- 顎骨への侵襲が少ない
というメリットがあります。
そのため、内科治療に反応しない口内炎では、「高齢になるまで待つ」のではなく、適切なタイミングで外科治療を検討することが重要です。
全臼歯抜歯から1か月後、食欲と体重に大きな変化がみられました
以前ご紹介した、猫エイズ(FIV)陽性の3歳猫に対して全臼歯抜歯を行った症例の1か月後の経過をご紹介します。
手術の内容はこちら「猫エイズ陽性でも口内炎は治療できる?|3歳猫の全臼歯抜歯と早期治療の重要性」
猫の歯肉口内炎(FCGS)は、抜歯を行ってもすぐに炎症が完全に消えるわけではありません。
しかし、多くの猫では痛みが軽減することで食欲や生活の質(QOL)が改善していきます。
今回は、術後1か月でみられた変化についてご紹介します。
術後1か月の口腔内
術後1か月の診察では、
- 抜歯部は順調に治癒
- 尾側口腔粘膜には軽度の発赤が残存
- 明らかな疼痛反応は認めない
という状態でした。
口内炎は完全には消失していませんでしたが、術前と比較すると炎症は軽減していました。

食欲は大きく改善
術前は、
- 食べたそうにするが食べられない
- 食べ始めても途中でやめる
- 食欲にムラがある
という状態でした。
しかし術後1か月では、「何でも食べられるようになった」と飼い主様からご報告いただきました。
痛みが軽減したことで、食事に対するストレスも大きく改善したと考えられます。
体重も400g増加
さらに術後1か月で、体重は約400g増加していました。
歯肉口内炎では口の痛みにより十分な栄養摂取ができず、体重が減少する猫も少なくありません。
食欲の改善が体重増加という形で確認できたことは、治療効果を示す大きな指標の一つと考えています。
口腔内PCR検査でも大きな変化
本症例では、術前と術後で口腔内PCR検査も実施しました。
その結果、歯周病との関連が強い細菌は術後には検出されなくなっていました。
抜歯によって歯周ポケットがなくなることで、細菌が定着しにくい環境へ変化したことが示唆されます。
もちろん、PCRの結果だけで口内炎の改善を判断することはできません。
しかし、
- 臨床症状の改善
- 食欲の改善
- 体重増加
- 細菌叢の改善
を総合的に評価することで、治療効果を確認することができます。

猫エイズ陽性でも治療を諦める必要はありません
FIV陽性というだけで、「口内炎は治らない」と思われることがあります。
しかし実際には、
- 適切な外科治療
- 術後管理
- 定期的な経過観察
によって生活の質が大きく改善する猫は少なくありません。
本症例でも、術後まだ軽度の炎症は残っていますが、食欲や体重など日常生活には明らかな改善がみられています。
今後も経過を観察しながら、必要に応じて追加治療を検討していく予定です。
まとめ|歯肉口内炎(FCGS)は経過観察も大切です
- 全臼歯抜歯後1か月で食欲が大きく改善
- 体重は400g増加
- 口内炎は完全ではないものの炎症は軽減
- 術後PCRでは歯周病関連細菌が検出されなくなった
- 猫エイズ陽性でも適切な治療により生活の質の改善が期待できる
猫の慢性口内炎は、一度の治療ですべてが終わる病気ではありません。
しかし、適切なタイミングで外科治療を行い、その後も経過を丁寧に追うことで、多くの猫が快適な生活を取り戻せる可能性があります。