「最近、うちの子が鼻水を出したり、くしゃみをしたりすることが増えた」
「ブーブーと鼻を鳴らす”逆くしゃみ”が前より多い気がする」
シニア犬の飼い主様から、このようなご相談をよくいただきます。年のせいかな、風邪かな、と様子を見てしまいがちですが、実は原因が「歯」にあることも少なくありません。
今回は、逆くしゃみの増加がきっかけで歯科治療を受けた15歳のワンちゃんの症例をご紹介しながら、老犬の鼻の症状と歯周病の関係を解説します。
なぜ歯の病気で鼻水が出るの?
犬の上あごの歯、特に上の犬歯(牙)の根っこはとても長く、鼻の空間(鼻腔)のすぐそばまで伸びています。犬歯と鼻腔を隔てている骨はとても薄いのです。
歯周病が進むと、歯を支えている骨が溶けていきます。上の犬歯のまわりでこれが起こると、口と鼻の間の骨に穴があき、口と鼻がつながってしまうことがあります。これを「口腔鼻腔瘻(こうくうびくうろう)」と呼びます。
口と鼻がつながると、
- 食べ物や水、細菌が鼻に入る
- 鼻の粘膜に炎症が起こる
その結果、次のような症状が出てきます。
- 鼻水(片側だけのことが多い。膿のような鼻水や、血が混じることも)
- くしゃみ
- 逆くしゃみ(鼻をブーブー鳴らすように息を吸い込む発作)
- 鼻のまわりや目の下が腫れる
- 口臭が強くなる
特に小型犬・シニア犬に多く、歯が抜けそうになっていなくても、見えない根元で進行していることがあります。
症例紹介:逆くしゃみが増えた15歳のミックス犬

来院のきっかけ
15歳のミックス犬です。
- 今年に入ってから逆くしゃみが増えた
- 口臭が気になる
といった症状がありかかりつけの先生に診てもらったところ、犬歯がぐらついていることがわかり、歯科診療のため当院をご紹介いただきました。
麻酔前の検査
15歳という年齢を考え、治療の前に全身の状態をしっかり調べました。
- 血液検査
- 心臓エコー検査
- 胸部レントゲン検査
シニア犬の麻酔では、事前に体の状態を把握して、その子に合った麻酔の計画を立てることがとても大切です。「高齢だから麻酔はできない」ではなく、「検査をしたうえで安全にできるかを判断する」という考え方です。
歯科処置の内容
全身麻酔をかけたうえで、歯科用レントゲンを撮り、歯周ポケットの深さを1本ずつ調べました。歯周病は歯ぐきの下で進行するため、見た目だけではわからないことが多く、歯科用レントゲンは欠かせない検査です。
その結果、犬歯を含む複数の歯で歯周病が進み、残すのが難しい状態とわかりました。
- 歯石除去(スケーリング)
- 犬歯、小臼歯、切歯など、保存が難しい歯の抜歯
- 犬歯を抜いた部分は、歯肉の粘膜を使ったフラップ(歯肉の弁)で穴をふさいで縫合
上の犬歯を抜いたあとは、口と鼻の間に穴が残ることがあります。そのままにすると口腔鼻腔瘻の状態が続いてしまうため、歯ぐきの粘膜で丁寧に閉じる処置が重要です。
処置のあとは、抗菌薬と痛み止めをお出ししています。今後は傷の治り具合と、逆くしゃみや鼻の症状がどう変わるかを見ていきます。

老犬の鼻水、ほかにどんな原因がある?
老犬の鼻水やくしゃみの原因は、歯の病気だけではありません。
- 鼻炎(細菌・真菌・アレルギーなど)
- 鼻の中の腫瘍
- 異物(草の実など)
- 歯周病・口腔鼻腔瘻
中には早めの対応が必要な病気もあるため、症状が続くときは自己判断せず、動物病院で原因を確認することが大切です。
こんな症状があれば歯のチェックを
次のような様子が見られたら、歯の病気が隠れているかもしれません。
- 鼻水・くしゃみ・逆くしゃみが以前より増えた
- 片方の鼻だけから鼻水が出る
- 鼻水に血や膿が混じる
- 口臭が強くなった
- 硬いものを嫌がる、食事の選り好みをする、片側だけで噛む
- 歯がぐらついている、歯ぐきが赤い・出血する
- 口元や目の下が腫れている
ご家庭でできる予防
歯周病の予防には、毎日の歯みがきがいちばん効果的です。
- できれば毎日、難しくても2日に1回を目標に
- 犬歯の裏側(舌側・上あごの内側)は磨き残しが多い場所です
- 嫌がる子は、無理をせず少しずつ慣らしていきましょう
- シニア期に入ったら、定期的に動物病院で口の中をチェックしてもらいましょう
まとめ
- 老犬の鼻水・くしゃみ・逆くしゃみは、歯周病が原因のことがあります
- 上の犬歯の歯周病が進むと、口と鼻がつながる「口腔鼻腔瘻」になることがあります
- 診断には全身麻酔下での歯科用レントゲン検査が欠かせません
- シニア犬でも、麻酔前の検査をしっかり行うことで治療を選べることがあります
「年だから仕方ない」と思っていた鼻の症状が、歯の治療で楽になることもあります。気になる症状があれば、お気軽にご相談ください。