【歯科】前歯がぐらぐらして来たら「歯を抜くか残すかその子に合った歯科治療〜」

抜歯か温存かは「歯」ではなく「その子全体」で決める

「この歯、抜いた方がいいですか?」

歯科診療で最も飼い主様が気にされていることのひとつです。
結論から言うと、抜歯するかどうかは“歯1本”ではなく、その子全体の状態で判断しています。

  • 年齢
  • 犬種
  • 歯磨きのしやすさ
  • 口腔内の細菌環境
  • 食生活や遊び方

これらを総合的に見て、「抜歯することで困らないか?」「残すことで将来病気にならないか?」 を基準に判断します。


抜歯を判断するための重要な要素

抜歯治療か温存治療かを判断する際に重要な要素をまとめました。

① 年齢

  • 若齢:歯周組織の再生能力が高く温存を検討しやすい
  • 高齢:再発リスクを考え抜歯を優先することもある

同じ歯周病の進行具合でも年齢によって抜歯か温存かの判断、おすすめ度合いは変わってきます。


② 犬種(歯並び・骨の特徴)

  • 小型犬:歯が密集 → 歯周病が進行しやすい
  • ダックス・トイプードル:歯周病ハイリスク

同じ歯でも犬種によって歯周病の再発リスクが変わります。


③ 歯磨きの難易度

  • 毎日ケアできる → 温存しやすい
  • ケア困難 → 再発リスクが高い

“残した後に守れるか”が重要です。ケアが難しい子は予防的に積極的な抜歯を選択することもあります。


④ 口腔内細菌のバランス

  • 歯周病菌が優位(多い)
  • 慢性炎症がある

無理に残すと他の歯へ歯周病が波及するリスクもあり、重要な要素です。


⑤ 食生活・遊び方

  • 硬いものを噛む習慣
  • 食べ方(よく噛む方か、丸呑みか)
  • 好きな遊び(かじる、振り回す、キャッチするなど)

特定の歯を頻繁に使用する子の場合、その歯を極力残してあげたいという想いから温存治療を選択するケースもあります。


歯にはそれぞれ役割がある

犬の前歯と牙の写真

抜歯を考えるうえで重要なのは歯ごとの機能です。
日頃使っている歯なのかも、温存治療を選択する上でとても重要です。
今回はその中でも切歯(前歯)と犬歯(牙)の機能を紹介します。

切歯(前歯)

  • 食べ物をつまむ
  • 毛づくろい

機能的重要度は比較的低いのですが、口を開いた際の外貌に影響しやすい場所でもあります。
また、切歯を支える歯槽骨は他の部位に比べて少なく、再生治療の難易度が高い場所でもあります。

犬歯(キバ)

  • 物を保持する
  • 噛み合わせの支点
  • 舌を抑える(下顎)
  • 顎の骨の強度を保つ(下顎・小型犬)

様々な機能を有し、非常に重要な機能歯です。
若齢犬であれば積極的に温存したい部位ですが、上顎の犬歯は歯周病によって口腔鼻腔瘻の原因になるため注意が必要です。
また、下顎犬歯は下顎骨の強度にも影響し、特に小型犬では下顎骨を構成する要素とも言えます。
下のレントゲン写真のように、犬歯は下顎骨の大部分を占める骨の一部でもあるのです。
歯周病による下顎骨の骨折のリスク、もしくは抜歯による骨折のリスクなどを総合的に評価し、極力温存したい部位であるとも言えます。

小型犬の犬歯のレントゲン写真

症例①|下顎切歯を抜歯し犬歯を温存した8歳のチワワさん

小型犬の犬歯と切歯の写真。歯石が沈着し、歯周病が疑われる。

歯周病により下顎切歯が重度に動揺していた症例です。
隣接する犬歯は顎の強度にも影響するため極力温存を試みたいと思い治療に臨みました。
歯科レントゲンにて根尖病変がないこと、重度の水平性骨欠損がないことを確認し犬歯は温存できると判断しました。
しかし、隣接する切歯の歯周病は重度で、犬歯との間が狭すぎる咬合によって歯周病の再発を懸念し、術後のお手入れのしやすさも視野に入れて切歯は抜歯という選択になりました。

治療中の犬歯の写真。人工骨の顆粒やコラーゲンシートを用いて抜歯した部位を埋めている。

切歯を抜歯した部位に骨が再生するように、人工骨とPRF(Platelet-Rich Fibrin)、コラーゲンシートなどを用いて埋めています。

治療後の歯の写真。切歯は抜歯され、犬歯は温存している。

治療後の様子です。
2~6ヵ月後ほどで抜歯部位には骨ができるため、定期検診で歯周ポケットの深さを確認します。

症例②|下顎切歯を温存した5歳のミニチュアシュナウザーさん

顎の切歯と犬歯の間に歯周病が進行してしまった症例の写真。

先ほどの症例と同じく下顎の切歯と犬歯の間に歯周病が進行してしまった症例です。
この症例は5歳と比較的若く、お家でのデンタルケアも無理なくできる子であったため切歯も犬歯も温存する方針で治療に臨みました。

レントゲン検査では切歯、犬歯ともに根尖病変や吸収病巣はなく、骨欠損の状態的にも歯槽骨の再生が見込めると判断し歯周組織再生治療を実施しました。

術後の経過は非常に良好で、深さ7mmあった歯周ポケットも3mmまで改善し、切歯と犬歯の間の歯肉粘膜も再生していました。

犬の切歯と犬歯の歯周組織再生治療のビフォー&アフター写真。

症例③|上顎切歯の再生治療を行なった6歳のポメラニアンさん

上顎切歯に単独で歯周病が起こってしまった症例です。
歯肉の赤み、口臭、歯の動揺(ぐらつき)を認め、他院で抜歯治療を提案されたとの主訴で来院されました。

全身麻酔下で歯科レントゲンの撮影を行ったところ、

  • 右上顎の切歯に重度歯周病
  • 歯槽骨の吸収あり

という状態でした。通常であれば抜歯を選択するケースも多い状態です。


治療反応の注意事項などをお伝えた上で、今回は以下の条件がそろっていたため、歯を残す治療を選択しました。

  • 骨欠損の形が再生に適している
  • 飼い主様が強く温存を希望
  • 術後の歯磨きが可能

治療では

  • 歯周ポケットの徹底清掃
  • 歯周組織再生剤(リグロス®)の使用

を行いました。術後のレントゲンでは

  • 歯槽骨の再生
  • 歯周ポケットの改善

が確認されました。

歯周組織再生治療前後の歯科レントゲン写真。


歯周病は重度から軽度まで改善していましたが、まだ骨の再生が見込めるため再度治療を行い切歯を温存しました。

症例④|上顎切歯に口腔鼻腔瘻を認めた12歳のトイプードルさん。

上顎切歯の歯周病により口腔鼻腔瘻が起こってしまった症例です。
歯肉の赤み、口臭、歯の動揺(ぐらつき)を認め、慢性的なくしゃみと鼻水に悩まされているとのことでした。

全身麻酔下で歯科レントゲンを撮影すると、上顎切歯を支える歯槽骨はほぼなくなり、融解した歯周組織が鼻腔につながってしまっています。

重度歯周病を引き起こした切歯と犬歯の歯科レントゲン写真


この症例は切歯と隣接する犬歯を抜歯し、瘻孔を閉鎖するための外科手術を行いました。

抜歯部位を縫合した口腔粘膜の写真

手術後はくしゃみもおさまり、口臭もなくなりました。

まとめ|抜歯は“その子に合わせた戦略”

多くの飼い主様が「できれば歯を残したい」と考えると思います。
しかし残した結果、他の歯を失うケースも少なくありません。
歯科では歯を残すことと、他の歯や骨を守ることを天秤にかけて考える必要があります。

  • 抜歯か温存かは総合判断
  • 歯の機能を考慮する
  • 再発リスクを見極める
  • 無理な温存は他の歯に影響

「この歯をどうするか」ではなく「この子の口をどう守るか」がとても重要です。

当院では

  • 歯科用レントゲン
  • 歯周外科
  • 保存治療・抜歯

を組み合わせ、その子に合わせた治療方針をご提案しています。
「歯を残してあげたい」「抜歯と言われたけど不安」
という方はぜひ一度ご相談ください。