犬の歯が折れて神経が見えていたら、その日のうちに受診を
「遊んでいたら歯が折れてしまった」
「折れたところに赤い点が見える」
「神経が出ていたら、抜くしかないの?」
犬の歯が折れて中の神経(歯髄)が露出したとき、治療の選択肢を大きく左右するのが折れてから受診するまでの時間です。
折れてすぐに治療ができれば、神経を取り除かずに残せることがあります。
今回は、歯が折れたその日に受診し、翌日に生活歯髄切断(せいかつしずいせつだん)を行って神経を残すことができたトイプードルの症例をご紹介します。
症例|歯が折れた当日に来院したトイプードル
今回来院したのは、体重2kgほどのトイプードルです。
その日のうちに上の奥歯が折れたことに気づき、すぐに当院の歯科専門診療を受診されました。
診察の結果、左上顎第四前臼歯(歯の番号では208)の複雑破折でした。
歯ぐきより上の部分で折れており、割れた部分から歯髄が露出していました。

神経が出ている歯の治療は大きく3つ
歯髄が露出した歯(複雑破折)の治療には、主に次の3つがあります。
- 生活歯髄切断:露出して汚染された表面の歯髄だけを取り除き、残りの健康な歯髄を生かしたまま保護する治療
- 根管治療(抜髄):歯の中の歯髄をすべて取り除き、根の中を消毒して詰める治療
- 抜歯:歯そのものを抜く治療
露出した歯髄は、時間がたつほど口の中の細菌に汚染され、炎症が奥へ広がっていきます。
そのため、生活歯髄切断を選べるのは、折れてから時間がたっていない場合に限られます。
一般的には、露髄してから48時間以内がひとつの目安とされています。
神経が出ていて根管治療を行った症例は犬の歯が欠けたら?|奥歯が折れた6歳ジャック・ラッセル・テリアの根管治療、神経が出ていなかった症例は犬の奥歯が折れたら?|硬いおやつで第四前臼歯が折れてしまった3歳ミニチュアダックスフントで紹介しています。
生活歯髄切断とは?
生活歯髄切断は、歯の神経を「生きたまま」残す治療です。
歯髄が生きていると、
- 歯の内側で象牙質がつくられ続け、歯が丈夫になっていく
- 歯がもろくなりにくい
- 歯の中の状態の変化に体が反応できる
といったメリットがあります。
とくに若い犬では、歯の壁がまだ薄いことが多く、歯髄を残して歯の成長を続けさせることに大きな意味があります。
治療|折れた翌日に生活歯髄切断を実施
今回の症例では、歯が折れた当日(初診日)に治療方針をご相談し、翌日に全身麻酔下で治療を行いました。
麻酔の前には、血液検査、胸部レントゲン、心臓の評価を行い、安全に麻酔をかけられることを確認しています。
治療では、露出して汚染された歯髄を取り除き、残した歯髄を薬剤で保護したうえで、歯の表面を歯冠修復で封鎖しました。
歯髄を取り除く範囲は、歯髄腔の髄角(歯髄の先端部分)の手前までにとどめることができました。
早い時期に治療できたことで、取り除く歯髄を最小限にして、残りの神経を生かしたまま保護することができました。
神経を残せるかどうかは「止血時間」で判断します
生活歯髄切断では、歯髄を取り除いたあとに残した歯髄からの出血がどのくらいで止まるかを確認します。
健康な歯髄であれば、滅菌した綿球などで軽く押さえると、数分以内(目安として5分程度)で出血が止まります。
反対に、なかなか血が止まらない場合や、出血が少なく色が悪い場合は、歯髄の奥まで炎症が広がっている可能性があります。
その場合は、もう少し深い位置まで歯髄を取り除いて再度確認するか、根管治療に切り替えることを検討します。
今回の症例では、髄角の手前で歯髄を取り除いた時点で止血が得られたため、それ以上深く削ることなく、残りの歯髄を保護することができました。
折れてから治療までの時間が短かったことが、歯髄の炎症を浅い範囲にとどめ、良い止血につながったと考えられます。


折れた歯の状態はとても良く、神経を残す治療を選ぶことができました。
生活歯髄切断のあとは再検査が大切です
生活歯髄切断は、「神経を残したら終わり」ではありません。
残した歯髄がその後も健康に生きているかを確認するため、治療後に全身麻酔下での歯科レントゲン検査が必要です。
再検査では、
- 歯の根の先に炎症の影がないか
- 残した歯髄が生きていて、歯の内側に新しい象牙質ができているか
- 修復した部分にすき間や欠けがないか
などを確認します。
万が一、歯髄がうまく残らなかった場合には、根管治療などに切り替えます。
今回も、治療を選ぶ時点で「2回目の麻酔が必要になる」ことを飼い主様にご説明し、ご理解いただいたうえで治療を行いました。
犬の歯が折れたときに飼い主様にできること
- 折れた歯をよく見る:歯の真ん中にピンクや赤い点、出血があれば神経が出ている可能性があります
- できるだけ早く受診する:当日〜翌日の受診で、神経を残せる可能性が高くなります
- 痛がっていなくても様子を見ない:犬は歯の痛みを表に出さないことが多く、ふつうにご飯を食べることもあります
- 硬すぎるものを噛ませない:骨、蹄、鹿の角、硬いおもちゃなどは歯が折れる原因になります
まとめ|犬の歯が折れたら、時間が勝負
今回のトイプードルでは、歯が折れたその日に受診し、翌日に治療ができたことで、生活歯髄切断によって神経を残すことができました。
歯が折れて神経が出ていても、早く治療すれば歯を抜かず、神経も残せる可能性があります。
反対に、時間がたってしまうと根管治療や抜歯が必要になることが多くなります。
「歯が折れた」「歯の真ん中に赤い点が見える」と気づいたら、その日のうちに動物病院へご連絡ください。
当院では、歯科専門診療で破折歯の診断と、生活歯髄切断・根管治療などの歯内治療を行っています。愛犬の歯が折れてしまったときは、お早めにご相談ください。