【歯科】犬の前歯がグラグラ…抜歯した方がいい?|歯を残せるケース・抜歯をおすすめするケース

犬の前歯がグラグラしている…様子を見ても大丈夫?

「前歯が揺れている」
「歯が抜けそう」
「高齢だから様子を見るしかない?」

このようなご相談は、小型犬を中心によく受けます。

犬の前歯(切歯)がグラグラする原因の多くは歯周病です。
歯周病が進行すると歯を支える骨(歯槽骨)が溶け、歯が動くようになります。

しかし、グラグラしている歯を必ず抜歯するわけではありません。
年齢や歯周病の進行度、ご家庭でのデンタルケアなどを総合的に判断して治療方針を決定します。


なぜ小型犬は前歯がグラグラしやすい?

小型犬では

  • 顎が小さい
  • 前歯が密集している
  • 歯磨きしづらい

という特徴があります。
そのため切歯に歯石が付きやすく、歯周病→骨が溶ける→前歯がグラグラする
という経過をたどることが多くあります。


積極的に抜歯をおすすめするケース

前歯がグラグラしていても、すべてが保存不可能というわけではありません。
しかし、次のような場合は積極的に抜歯をおすすめしています。

① 高齢犬で一度の麻酔で治療を終えたい

13〜16歳などの高齢犬では、
今後何度も麻酔を行うよりも、感染源をしっかり取り除き、一度の処置で口腔内を安定させることを優先することがあります。


② 隣の犬歯へ悪影響を及ぼす場合

小型犬では切歯が犬歯に非常に近い位置にあります。
そのため、前歯の感染が犬歯→犬歯周囲の骨まで広がることがあります。

犬歯は噛む機能にとても重要な歯です。
機能歯を守るために、前歯を抜歯するという考え方もあります。


③ 骨吸収が著しく進行している

歯科レントゲンで

  • 重度骨吸収
  • 根尖病変
  • 強い動揺

が認められる場合は、保存よりも抜歯の方が良好な予後になることが多くあります。

症例|下顎切歯を抜歯し犬歯を温存した8歳のチワワさん

小型犬の犬歯と切歯の写真。歯石が沈着し、歯周病が疑われる。

歯周病により下顎切歯が重度に動揺していた症例です。
隣接する犬歯は顎の強度にも影響するため極力温存を試みたいと思い治療に臨みました。
歯科レントゲンにて根尖病変がないこと、重度の水平性骨欠損がないことを確認し犬歯は温存できると判断しました。
しかし、隣接する切歯の歯周病は重度で、犬歯との間が狭すぎる咬合によって歯周病の再発を懸念し、術後のお手入れのしやすさも視野に入れて切歯は抜歯という選択になりました。

治療中の犬歯の写真。人工骨の顆粒やコラーゲンシートを用いて抜歯した部位を埋めている。

切歯を抜歯した部位に骨が再生するように、人工骨とPRF(Platelet-Rich Fibrin)、コラーゲンシートなどを用いて埋めています。

治療後の歯の写真。切歯は抜歯され、犬歯は温存している。

治療後の様子です。
2~6ヵ月後ほどで抜歯部位には骨ができるため、定期検診で歯周ポケットの深さを確認します。


歯を残せる可能性があるケース

一方で、すべての前歯が抜歯になるわけではありません。
次のような条件が揃えば、保存治療を検討することがあります。

若く、今後も長く歯を使う犬

数年ごとの麻酔下メンテナンスを行える年齢であれば、再生治療や保存治療が選択肢になります。


ご家庭でデンタルケアができる

保存治療は、治療よりもその後の歯磨きが重要です。
毎日の歯磨き、定期検診、定期クリーニングができるご家庭では、歯を長く維持できる可能性があります。

症例|上顎切歯の再生治療を行なった6歳のポメラニアンさん

上顎切歯に単独で歯周病が起こってしまった症例です。
歯肉の赤み、口臭、歯の動揺(ぐらつき)を認め、他院で抜歯治療を提案されたとの主訴で来院されました。

全身麻酔下で歯科レントゲンの撮影を行ったところ、

  • 右上顎の切歯に重度歯周病
  • 歯槽骨の吸収あり

という状態でした。通常であれば抜歯を選択するケースも多い状態です。


治療反応の注意事項などをお伝えた上で、今回は以下の条件がそろっていたため、歯を残す治療を選択しました。

  • 骨欠損の形が再生に適している
  • 飼い主様が強く温存を希望
  • 術後の歯磨きが可能

治療では

  • 歯周ポケットの徹底清掃
  • 歯周組織再生剤(リグロス®)の使用

を行いました。術後のレントゲンでは

  • 歯槽骨の再生
  • 歯周ポケットの改善

が確認されました。

歯周組織再生治療前後の歯科レントゲン写真。


歯周病は重度から軽度まで改善していましたが、まだ骨の再生が見込めるため再度治療を行い切歯を温存しました。


「残すこと」が正解とは限りません

歯を残したい。そう思う飼い主様は多くいらっしゃいます。
しかし、感染した歯を無理に残すことで

  • 犬歯まで歯周病になる
  • 何度も麻酔が必要になる
  • 痛みが続く

こともあります。
大切なのはその歯を残すことではなく、愛犬が快適に食事を続けられる口腔環境を維持することです。


まとめ

  • 犬の前歯がグラグラする原因の多くは歯周病
  • 歯科レントゲンで骨の状態を確認することが重要
  • 高齢犬や犬歯へ感染が波及する場合は積極的な抜歯を検討する
  • 若齢でホームケアが十分できる場合は保存治療を選択できることもある
  • 「歯を残すこと」ではなく「口腔内全体を守ること」が最も大切