犬も硬いものを噛んで歯が折れることがあります。
「硬いおやつを噛んでいたら歯が欠けた」
「奥歯の一部がなくなっている」
「血は出ていないけれど、そのままで大丈夫?」
犬では、硬いおやつやおもちゃを噛んだことをきっかけに歯が折れる破折が起こることがあります。
特に注意したいのが、上顎の大きな奥歯である第四前臼歯です。
今回は、硬いチーズのおやつを食べた際に歯が折れた可能性が高い、3歳のミニチュアダックスフントの症例をご紹介します。

症例|3歳のミニチュアダックスフント
今回来院したのは、3歳のミニチュアダックスフントです。
左上顎第四前臼歯の一部が欠けており、飼い主様からお話を伺うと、硬いチーズのおやつを食べた際に破折した可能性が考えられました。
第四前臼歯は犬が食べ物を噛み切る際に大きな力が加わる歯です。
硬いものを繰り返し噛むことで、歯の一部が欠けたり、大きく割れたりすることがあります。

犬の第四前臼歯は破折に注意
上顎第四前臼歯は「裂肉歯」と呼ばれる大きな歯で、犬の破折で問題になりやすい歯のひとつです。
特に、
- 非常に硬いチーズ
- 骨
- 鹿角
- 硬いナイロン製のおもちゃ
- その他、歯よりも硬いもの
などを強く噛んだ際には注意が必要です。
「歯をきれいにするため」「長く噛んで遊べるから」と与えているものが、場合によっては歯に強い負荷をかけることがあります。
「歯が折れた=抜歯」ではありません
破折した歯の治療を考えるうえで重要なのが、どこまで歯が折れているかです。
歯の内部には歯髄と呼ばれる神経や血管を含む組織があります。
破折によって歯髄が露出している状態を露髄といいます。
露髄している場合には、受傷からの時間や歯髄の状態などによって、生活歯髄療法、根管治療、抜歯などを検討します。
一方、今回の症例では診察・検査の結果、明らかな露髄は確認されませんでした。
そこで、破折面を保護するための歯冠修復治療を行いました。
露髄していなくても治療する理由
「神経が出ていないなら、そのままでもいいのでは?」
と思われるかもしれません。
しかし、歯髄が露出していない破折でも、エナメル質の下にある象牙質が露出していることがあります。
象牙質には「象牙細管」と呼ばれる非常に細い管があり、歯の内部の歯髄へとつながっています。
そのため、露出した象牙質をそのままにせず、破折面の状態に応じて修復・保護することを検討します。
今回は歯冠修復を実施
今回は明らかな露髄を認めなかったため、左上顎第四前臼歯の破折面に対して歯冠修復治療を行いました。

ただし、今回重要なのは、「修復したから治療終了」とは考えていないことです。
見た目で露髄していなくても、歯髄の状態には注意が必要
今回の症例では、診察時には露髄を確認できませんでした。
しかし、破折が起きた時点で歯髄に何らかの影響が生じ、その後に第三象牙質(修復象牙質)が形成された可能性なども否定できません。
また、歯髄の炎症や壊死が起きても、犬が明らかな痛みを示さない場合があります。
そのため、現在の見た目だけで「歯髄は問題ない」と断定することはできません。
半年後に再検査を検討しています
今回の症例では歯冠修復後も経過を観察し、約半年後を目安に全身麻酔下での再検査を検討しています。
再検査では、歯科レントゲンなどを用いて、
- 歯根周囲に異常がないか
- 根尖部に病変がないか
- 歯髄壊死を疑う変化がないか
- 修復した歯に新たな問題がないか
などを確認します。
破折歯の治療では、「その日に歯を修復すること」だけでなく、その後も歯が健康な状態を維持できているか確認することが重要です。
犬が痛がっていなくても安心とは限りません
犬の歯が折れても、
「普通にご飯を食べている」
「触っても痛がらない」
「出血していない」
ということがあります。
しかし、それだけでは歯髄や歯根に問題がないとは判断できません。
時間が経過して歯髄が壊死すると、根尖部に炎症が起こり、将来的に根尖膿瘍などにつながる可能性もあります。
そのため、「痛がっていない=治療が必要ない」とは限らないことを知っておくことが大切です。
硬いおやつを与えるときは注意しましょう
犬は硬いものを好んで噛むことがありますが、歯が折れるほど硬いものを与える必要はありません。
特に、噛んでもほとんど変形しないような非常に硬いおやつや玩具には注意が必要です。
歯の健康のために与えていたものが、破折の原因になってしまうこともあります。
まとめ|犬の奥歯が折れたら、露髄の有無だけで判断しない
犬の第四前臼歯は、硬いものを噛んだ際に破折することがある歯です。
今回の3歳のミニチュアダックスフントでは、硬いチーズのおやつを食べた際に左上顎第四前臼歯が折れた可能性が高く、検査では明らかな露髄を認めなかったため、歯冠修復治療を行いました。
ただし、露髄していないように見えるからといって、その後の歯髄の健康まで保証できるわけではありません。
今回も半年後を目安に再検査を検討しています。
「犬の奥歯が欠けている」「硬いものを噛んだ後に歯が折れた」「血は出ていないけれど歯が欠けている」と気づいた場合は、放置せず、一度動物病院で歯の状態を確認してもらいましょう。