猫がよだれを垂らしているところを見たことはありますか?
猫がごはんを前にしてよだれを出す姿は少し可愛らしく見えますが、実はそれが病気のサインであることがあります。
特に、口の中の炎症が原因でよだれが増えている場合、猫自身が強い痛みを感じていることも少なくありません。
今回は「よだれが止まらない」という症状で来院した猫ちゃんの実際の症例をもとに、**尾側口内炎(Caudal Stomatitis/FCGS)**という病気について解説します。
愛猫が口を気にしていたり、よだれを垂らすことがある方は、ぜひ最後までご覧ください。
📍 目次
- 猫のよだれが出るときに考えられること
- 尾側口内炎(FCGS)とは?
- 症例紹介:2歳のロシアンブルー
- 全臼歯抜歯という治療選択
- まとめ
猫のよだれが出るときに考えられること
猫のよだれが出る原因には、さまざまなものがあります。
- 歯周病や歯肉炎
- 異物(糸や硬いおもちゃなど)の付着
- 腫瘍
- 中毒や感染症
- 尾側口内炎(FCGS)
中でも尾側口内炎は、口の奥の粘膜に強い炎症が起こることで、猫に激しい痛みをもたらす病気です。
重度になると、食事を嫌がったり、手で口をこする仕草が見られるようになります。

尾側口内炎(FCGS)とは?
尾側口内炎は、猫の口の中の**奥(喉の手前・臼歯の後方)**に炎症が強く出る病気です。
英語では “Feline Chronic Gingivostomatitis” と呼ばれ、略して FCGS とも言われます。
炎症の範囲は歯肉だけでなく、頬の内側や舌の根元、咽頭の手前にまで及ぶことがあります。
炎症部位は真っ赤に腫れ上がり、見るからに痛々しい状態となるため、食事や毛づくろいが困難になるのが特徴です。

原因について
明確な原因はまだ完全には解明されていませんが、次のような要因が関係すると考えられています。
- カリシウイルスなどのウイルス感染
- 歯周病やプラークによる細菌感染
- 免疫の過剰反応(自分の歯や細菌に対する免疫反応)
つまり、体の中で“自分の歯”を敵と認識してしまい、炎症が続く状態です。
症例紹介:2歳のロシアンブルー
今回ご紹介するのは、2歳のロシアンブルーの猫ちゃん。
もともとのかかりつけ動物病院でステロイドによる内科的治療を続けていました。
はじめのうちは炎症のコントロールができていましたが、次第に薬の効果が薄くなり、よだれの量が増加、食欲の低下も見られるようになりました。
そのため、飼い主様が「これ以上薬でよくならないのでは」と感じ、セカンドオピニオンとして当院を受診されました。
診察時、口腔内を確認すると、尾側(奥側)の粘膜に強い発赤と潰瘍形成がみられ、典型的な尾側口内炎の所見を呈していました。

全臼歯抜歯という治療選択
尾側口内炎は、内科治療のみでは根治が難しい病気です。
多くの猫で、炎症の原因が「歯や歯周組織」にあるため、歯を取り除くことが治療の一つの選択肢となります。

この猫ちゃんの場合も、内科的な治療で十分な改善が得られなかったため、**全臼歯抜歯(奥歯をすべて抜く手術)**を行う方針となりました。
全臼歯抜歯は決して軽い選択ではありませんが、猫にとっては「慢性的な痛みから解放される」ための大切な治療法です。
抜歯を行うことで、免疫反応の引き金となる歯周プラークを除去し、炎症を鎮めることが目的です。
飼い主様には、術前にしっかりと病態とリスクを説明し、十分にご理解をいただいたうえで実施しました。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
猫の「よだれが出る」という症状の中には、口の奥の強い炎症(尾側口内炎)が隠れていることがあります。
初期のうちは内科治療で症状が落ち着くこともありますが、進行すると抜歯を含めた外科的治療が必要になるケースも少なくありません。
猫がよだれを垂らしたり、口を痛がる仕草を見せたときは、早めの受診が大切です。
痛みを我慢している時間を少しでも短くできるように、様子を見るではなく一度相談することをおすすめします。
東京動物皮膚科センター/神宮前動物病院
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