【歯科】歯を温存するために歯周外科治療を行った症例15

歯科担当獣医師の森田です!

動物の健康を末長く守るために、抜くべき歯と温存する歯の選別は非常に難しいものがあります。
こちらの写真の症例は下顎の切歯(前歯)がぐらぐらしているという主訴で来院されました。

肉眼的にも歯肉が後退しているのが分かります。
歯科用レントゲンでは歯を支える歯槽骨が歯周病によって退行していることが確認できました。

この時点で、全ての切歯を抜いてしまう治療方法も適応になるのですが、「歯をなるべく残してあげたい」という飼い主様の強いご希望と、
歯ブラシを受け入れてくれる性格の子でしたので、歯周外科治療と歯周組織再生治療を組み合わせて歯を温存する方針を取りました。

歯周外科治療

まず、超音波スケーラーを使って慎重に歯石を除去した後、歯肉を切開し歯根に付着した小さな歯垢や歯石をスケーラーで取り除きます。
そして、本来歯根が付着する歯肉の内側、歯周病の進行とともにダウンエピテーションを起こしてしまった部分をキュレッタージによって除去します。

歯周組織を徹底的に清掃した後、後述する歯周組織再生治療を施し縫合を行いました。

最初の写真に比べると切歯の背が高くなったように見えますが、これは後退した歯槽骨に合わせて切開した歯肉を縫合しているためです。
切歯同士の隙間が開くことで新たな歯垢の付着を最小限に、かつ歯ブラシや歯間ブラシで磨きやすくしています。

ボーンタイトとPRFを使った歯周組織再生治療

「ボーンタイト × PRF法」とは?

当院では、歯周病によって失われた骨の再生を助けるために、「BoneTite(ボーンタイト)」と「PRF(ピーアールエフ)」を併用する再生療法を導入しています。

この2つには、それぞれ重要な役割があります。


🔹 ボーンタイト(BoneTite)とは

ボーンタイトは、人工的に作られた骨の代わりとなる粉末状の材料です。
歯周病で溶けた部分にこの骨補填材を詰めることで、骨の“足場”を作ります。

例えるなら、「骨の足場を組んで、自然治癒を手助けする工事用の土台」のようなものです。


🔹 PRF(Platelet-Rich Fibrin)とは

PRFは、ワンちゃん自身の血液から作る“自己再生素材”です。
血液を特殊な遠心機で処理することで、血小板や成長因子を多く含んだゼリー状の成分を取り出すことができます。

このPRFには、

  • 傷の治りを早くする
  • 炎症を抑える
  • 骨や組織の再生を促す
    といった働きがあるため、手術部位の回復を大きく助けてくれます。

■この2つを併用する理由

  1. 再生力が高まる
     ボーンタイト単独よりも、PRFを混ぜることで骨がより早く・しっかりと再生しやすくなります。
  2. 傷の治りが早く、腫れにくい
     PRFの抗炎症作用により、術後の出血や腫れが抑えられるといわれています。
  3. 自分の体の成分だから安心
     PRFはワンちゃん自身の血液から作るため、拒絶反応や感染の心配がほぼありません

■ 実際の治療の流れ(例)

  1. 麻酔下で歯周ポケット内を清掃し、感染部分を除去
  2. 骨が失われた部分に「ボーンタイト+PRF混合物」を填入
  3. 必要に応じてPRF膜で覆い、縫合して閉じる
  4. 抗生剤などで数日間フォローし、回復を観察

■ 注意点と限界

  • すべての症例で骨が完全に元通りになるわけではありません
  • PRF作製には採血が必要となります(小型犬ではできないことも)
  • 再生には数週間〜数ヶ月の時間がかかります

まとめ

犬の歯周病は進行性の病気ですが、「早期発見・適切な治療・再生療法」で、歯を守れる可能性は大いにあります
私たちは、できるだけ多くの歯を残し、食べる楽しみを長く維持するお手伝いをしたいと考えています。

「うちの子にも適応できるかしら?」と気になった方は、ぜひ一度ご相談ください。

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