こんにちは。皮膚科の馬場です。
今回から4回にわたって、犬アトピー性皮膚炎の大事な治療薬であるアポキルとゼンレリアについて、いろいろ解説します。
アポキルとゼンレリア、何が違う?
犬のアトピー性皮膚炎やアレルギーによる「かゆみ」の治療薬として、現在よく使用されているのがアポキルとゼンレリアです。


診察室でも、
「アポキルとゼンレリアは何が違うんですか?」
「ゼンレリアはアポキルの新しい薬ですか?」
「どちらのほうが効きますか?」
といった質問をいただくことが増えてきました。
アレルギーの「かゆみ」を抑える薬
犬のアトピー性皮膚炎では、皮膚の中でさまざまな物質が放出され、それが神経や免疫細胞に情報を伝えることで、かゆみや炎症が起こります。
以前は、こうした症状を抑えるためにステロイドやシクロスポリン(アトピカなど)が多く使用されていました。
そこに10年以上前に登場したのがアポキル(オクラシチニブ)です。
アポキルは「JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬」と呼ばれる薬で、かゆみや炎症の情報を細胞内へ伝える経路をブロックします。
比較的速くかゆみを抑えられることから、現在では犬のアトピー性皮膚炎における代表的な治療薬のひとつになっています。
そして、もうひとつのJAK阻害薬として約2年前に登場したのがゼンレリア(イルノシチニブ)です。
ゼンレリアはアポキルのジェネリックではありません
名前や働きが似ているため誤解されることがありますが、ゼンレリアはアポキルのジェネリック医薬品ではありません。
同じ「JAK阻害薬」というグループに属していますが、成分もJAKに対する作用の仕方も異なる別のお薬です。
JAKにはJAK1、JAK2、JAK3、TYK2という種類があり、薬によってそれぞれに対する作用の強さが異なります。
少し専門的になりますが、アポキルはJAK1を中心に作用する薬であるのに対して、ゼンレリアは複数のJAKに作用する、より広いJAK阻害作用を持っています。
ただし、「たくさんのJAKを抑える=優れた薬」という単純な話ではありません。
JAKはかゆみや炎症だけでなく、正常な免疫や血液をつくる働きなどにも関係しています。
そのため、必要な効果と、それ以外の作用とのバランスを考えることが大切です。
結局、どちらが効くの?
実際の臨床試験では、アトピー性皮膚炎の犬を対象として両者を比較したところ、どちらもかゆみや皮膚症状を改善し、安全性についても大きな差は認められていません。
つまり現時点では、
「ゼンレリアが新しいからアポキルより優れている」
あるいは
「アポキルのほうが昔からあるから優れている」
とは一概には言えません。
大切なのは、その子の症状や生活スタイルに合わせて薬を選択することです。
では、実際にはどのような犬でアポキルを選び、どのような犬でゼンレリアを選ぶのでしょうか?
次回は、私たちが実際の診療でどのように2つの薬を使い分けているのかについて解説します。