【皮膚;獣医師向け】犬アトピー性皮膚炎の治療ガイドラインが大幅改訂 ― ICADA 2026年版のポイント

こんにちは。馬場です。

国際動物アレルギー疾患委員会(ICADA)による犬アトピー性皮膚炎(cAD)の治療ガイドラインが、2026年9月末に改訂されました(Mueller ら, Veterinary Dermatology, 2026)。
2010年の初版、2015年の小改訂に続くもので、今回は単なるアップデートにとどまらず、治療の組み立て方そのものを見直す内容になっています。
本コラムでは、日常診療に関わる変更点を中心に整理します。

「急性か慢性か」から「リアクティブかプロアクティブか」へ

従来のガイドラインは、推奨を「急性増悪の管理」「慢性病変の治療」「再発予防」の3つに分け、主に効果発現までの時間を基準に薬剤を振り分けていました。たとえばグルココルチコイドとオクラシチニブは急性・慢性の両方に、シクロスポリンは慢性のみに推奨する、という整理です。

しかし実際の症例では、紅斑や擦過傷といった急性病変と、苔癬化や色素沈着といった慢性病変が混在して来院することが少なくありません。
加えて、cADの病態にはバリア機能の異常、炎症の制御異常、環境・食物アレルゲンへの反応、皮膚マイクロバイオームのディスバイオーシスが関与し、その比重は犬種、個体、病期によって変わります。

新ガイドラインは、こうした不均一性が旧来の枠組みでは反映しきれていなかったと認めたうえで、治療を次の2つのフェーズで考えるよう提案しています。

フェーズ1:リアクティブ療法は、今ある急性・慢性病変と瘙痒を治療し、臨床的寛解を導入する段階です。
フェーズ2:プロアクティブ療法は、寛解後も定期的な長期治療を続け、寛解を維持して増悪の回数を減らす段階です。

特に強調されているのが後者です。増悪のたびに治療して落ち着いたらやめる、という断続的な対応を繰り返すと、慢性変化へと進行しやすくなります。
旧ガイドラインではこの長期的な維持療法の重要性が十分に強調されていなかった、というのが改訂の大きな動機の一つです。

薬剤を「作用機序」と「作用スペクトル」で選ぶ

もう一つの柱は、作用機序と抗炎症作用のスペクトルを意識した薬剤選択です。
ガイドラインは治療介入を、スキンバリアケア、抗菌・マイクロバイオーム調整療法、アレルゲン回避とアレルゲン特異的免疫療法(AIT)、抗炎症・止痒療法に分類し、それぞれがどのフェーズに適するかを検討しています。

主要な治療選択肢の位置づけ

外用グルココルチコイドは、迅速かつ広範囲な抗炎症・止痒作用を持ち、リアクティブ療法とプロアクティブ療法の両方に推奨されています(SOR A)。
限局性病変や外耳道、結膜など特定部位の炎症に最適とされ、長期維持にはベネフィット/リスク比に優れたヒドロコルチゾンアセポネートなどの非従来型製剤が望ましいとしています。
一方、慢性的に苔癬化した皮膚では非従来型製剤の力価では不十分なことがあり、従来型製剤の方が有効とされています。
プロアクティブ療法の根拠として、寛解後に以前の病変部位へ週2日連続でスプレーすることで、再発までの期間の中央値がプラセボの33日に対して115日に延びたRCTが紹介されています。

経口グルココルチコイドは、迅速かつ確実な効果から増悪のリアクティブ治療に推奨されますが(SOR A)、有害作用が多いため長期使用には慎重さが求められます。
寛解導入まで0.5 mg/kgを1日1〜2回使用し、寛解後は漸減・中止する流れが示されています。
長時間作用型の注射製剤は用量を漸減できないため、可能な限り避けるべきとされています。
また、経口グルココルチコイドで速やかに改善しない場合は、二次感染や外部寄生虫、さらには皮膚上皮向性リンパ腫などの別診断を再評価するよう求めています。

JAK阻害薬は、今回の改訂で大きく記述が増えた領域です。
オクラシチニブに加え、汎JAK阻害薬のイルノシチニブと、JAK1選択的阻害薬のアチンビシチニブ(本邦未発売)が取り上げられています。
オクラシチニブとイルノシチニブはいずれも急性増悪とプロアクティブ維持の両方に適するとされ(SOR A)、イルノシチニブについてはオクラシチニブとの直接比較RCTで瘙痒・臨床スコアの改善がより大きかったことが示されています。
1日1回投与のため、オクラシチニブで1日2回から1日1回に切り替える際に見られることのあるリバウンドが起きにくい点も言及されています。アチンビシチニブは現時点で学会抄録のデータしかなく、推奨はSOR Cにとどまっています。
なお、JAK阻害薬の作用は「セミブロードスペクトラム」と位置づけられ、耳炎や趾間皮膚炎のような慢性病変では追加・代替療法が必要になる可能性があるとされています。

ロキベトマブは、瘙痒が主な問題である犬の急性増悪とプロアクティブ維持に適するとされています(SOR A)。
作用はナロースペクトラムで、慢性病変、耳炎、趾間皮膚炎には追加療法が必要と考えられます。
一方で安全性が高く、他の薬剤との併用や、併発疾患のために他の抗炎症薬が使いにくい症例で有用とされています。

シクロスポリンは、効果発現に2〜4週間(場合により6週間)かかるため、リアクティブ療法には推奨されず、プロアクティブ維持療法向きと明確に位置づけられました(SOR A)。
導入初期のラグを埋めるため、最初の2〜3週間にプレドニゾロンやオクラシチニブを併用する方法が紹介されています。
動物用ジェネリック製剤は先発品との生物学的同等性が示されており、代替として許容されるとしています。

外用タクロリムス(0.1%)も、発現は遅いものの持続的で広範囲な作用を持つため、プロアクティブ維持療法に適するとされています(SOR B)。
指間部や結膜などの限局性病変に向いています。

抗ヒスタミン薬については評価が厳しく、リアクティブ療法としては提案できないとされました(SOR B)。
軽症・季節性の症例の維持療法や、鎮静が望ましい場合に限って検討の余地があるという位置づけです。

見落とされがちな基本:感染、バリア、アレルゲン

新ガイドラインは、抗炎症薬以外の土台となる介入も丁寧に扱っています。

細菌・マラセチア感染症の管理は、フェーズを問わず治療計画の基本とされています。
ただし細胞診の菌数だけで判断するのではなく、病変の確認、細胞診による確認、治療、病変の改善と感染消失の確認という手順を踏むことが推奨されています。
第一選択は外用消毒薬で、全身性抗菌薬は深在性膿皮症や外用療法が奏効しない場合に限り、培養・感受性試験を行うことが強く勧められています。
また、薬剤耐性への配慮から、いわゆる「パルス」療法は避けるべきとされています。

スキンバリアケアとしての入浴は、週1回程度が有用な補助療法とされ(SOR A)、特に軽症例のプロアクティブ維持で効果を発揮すると考えられています。
特定のシャンプーの優位性を示すエビデンスはなく、入浴の頻度と強度が最も重要な可能性があるとしています。
必須脂肪酸は安全で軽度の効果があり(SOR A)、グルココルチコイド、シクロスポリン、オクラシチニブの減量効果を示したRCTも紹介されていますが、効果が出るまで数か月かかる点には注意が必要です。

アレルゲン対策では、ノミ常在地域での通年予防が全症例に推奨されています。
頻繁なシャンプーで外用ノミ駆除薬の効果が落ちうる点も指摘されています。
食物アレルギーについては、血清検査や皮内試験は除去食試験の結果を予測できないため推奨されず、通年性のcADでは除去食試験を行うべきとされています(SOR A)。
初期に除去食試験が陰性でも、後に新たな食物アレルギーを獲得する可能性があるため、治療反応が落ちてきた際には再検討の価値があります。

AITは、環境アレルゲンが原因のcADのすべての犬に推奨され、大部分の犬で瘙痒、病変、追加薬剤の必要性が減少するとされています(SOR B)。
効果の評価には通常1年以上を要するため、プロアクティブ維持療法としての位置づけです。
近年はリンパ節内投与が皮下投与と同等以上に有効とする報告が増えている点も紹介されています。

併用療法の注意点

リアクティブフェーズでは、経口グルココルチコイドとシクロスポリン、オクラシチニブ、ロキベトマブの短期併用が認められています(SOR B)。
一方で、経口グルココルチコイド、シクロスポリン、オクラシチニブをいずれの組み合わせでも長期併用することは、日和見感染症や腫瘍発生のリスクを理論上高めるため推奨されていません(SOR D)。
長期管理では、作用機序の異なる安全性の高い薬剤や、外用療法、バリアケアを組み合わせる発想が重要になります。
また作用スペクトルの狭い薬剤は、重度の瘙痒には非常によく効いても、慢性炎症や耳炎にはほとんど効かないことがあるとも述べられています。
瘙痒が止まったことで「治療がうまくいっている」と判断していても、耳や足の慢性炎症が残っていないか確認する視点が求められます。

臨床現場での考え方の整理

ガイドラインのまとめ部分では、治療の流れが次のように示されています。

フェーズ1では、一般にグルココルチコイドのような速効性で広範囲に作用する薬剤が必要ですが、急性病変のみ、あるいは病変がほとんどない瘙痒犬では、JAK阻害薬やロキベトマブも選択肢になります。
重要なのは、多少の短期的な有害作用を許容してでも、病変と瘙痒が完全に消えるまで有効量を続けることです。早すぎる減量は、急速なリバウンドを招きます。

フェーズ2では、速効性が必要ないため選択肢が広がります。
個々の犬で疑われる誘因を標的に、バリアケア、マイクロバイオーム調整、アレルゲン回避、AIT、シクロスポリン、タクロリムスなどを組み合わせ、必要に応じて外用グルココルチコイドのプロアクティブ塗布で皮膚、足、耳、眼の潜在的な炎症を抑えます。
複雑な炎症ネットワークがなければロキベトマブのような単一標的の薬剤が有効なことも多く、不十分であればJAK阻害薬やシクロスポリンによる長期治療を検討します。

おわりに

今回の改訂は、「どの薬がどの時期に効くか」という視点から、「その犬の病態のどこを、どの段階で抑えるか」という視点への転換と言えます。ガイドライン自身も、すべての介入がすべての症例に必要なわけではなく、記載順に使うべきものでもないと明言しています。
各治療の利益、有害作用、実施のしやすさ、費用および重症度も飼い主と話し合い、犬と飼い主双方の生活の質を踏まえて治療計画を立てることが、最終的な目標として示されています。

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参考文献
Mueller RS, et al. Treatment of Canine Atopic Dermatitis: Updated Guidelines From the International Committee on Allergic Diseases of Animals (ICADA). Veterinary Dermatology. 2026. doi:10.1111/vde.70128