歯周病で歯ぐきがなくなっても、歯を残せることがあります

「犬の前歯の歯ぐきが下がってきた」
「歯の根元が見えている」
「歯周病と言われたけれど、できれば抜歯せずに残したい」
犬の歯周病が進行すると、歯を支えている歯槽骨だけでなく、周囲の歯肉も失われることがあります。
特に小型犬や短頭種では、下顎の前歯(切歯)周囲に歯周病がみられることも少なくありません。
重度の歯周病では抜歯が必要になることがありますが、歯の状態や残っている歯周組織などの条件によっては、歯を温存するための歯周治療を検討できる場合があります。
今回は、下顎切歯周囲の歯肉が大きく欠損していた6歳のボストンテリアに対し、歯の温存を目的として治療を行った症例をご紹介します。
症例|6歳のボストンテリア
今回来院したのは、6歳のボストンテリアです。
下顎切歯の歯周病が進行し、前歯を支える歯肉の一部が欠損している状態でした。

歯周病が進行すると、歯肉が下がるだけではなく、その下にある歯槽骨も失われていきます。
その結果、
- 歯が以前より長く見える
- 歯根が露出する
- 歯と歯の間の歯肉がなくなる
- 歯がグラグラする
- 歯肉が大きく欠損する
といった変化がみられることがあります。
抜歯ではなく「歯を残す治療」を希望
重度の歯周病では、感染源を取り除くために抜歯が選択されることもあります。
しかし今回は、飼い主様が可能であれば歯を残すことを希望されていました。
そこで歯周組織の状態を評価したうえで、下顎切歯の温存を目的とした歯周再建治療を行うことにしました。
重要なのは、歯周病の歯であればすべて温存できるわけではないことです。
骨吸収の程度、歯の動揺、歯周ポケット、感染の程度などを総合的に評価し、温存できる可能性があるかを判断します。
骨充填と歯肉の再建手術を実施
今回は全身麻酔下で歯周組織を処置した後、骨欠損部に対する骨充填治療と、失われた軟組織を被覆するための歯肉の再建手術を行いました。
歯周病治療では、単に見えている歯石を除去するだけではなく、歯周ポケット内部の感染組織や歯根表面を適切に処置することが重要です。
そのうえで症例によっては、失われた歯周組織の回復を目的とした再建治療を検討します。
術後2週間|歯肉の盛り上がりを確認
術後2週間の再診では、治療部位に歯肉の盛り上がりが確認されました。

手術直後だけでなく、治癒過程を定期的に確認することも歯周治療では重要です。
術後1か月|欠損していた部分にも歯肉を確認
さらに術後1か月の診察では、治療前に歯肉が欠損していた部分にも歯肉組織が確認できる状態となりました。

見た目にも大きな変化が確認できます。
一方で、この段階で確認できているのは主に軟組織である歯肉の治癒です。
骨充填を行った部位については、外から歯肉を見るだけで「骨が再生した」と判断することはできません。今後も歯科レントゲンや歯周検査などを用いて、長期的に評価していく必要があります。
歯周病の歯は「抜く・残す」をどう決める?
「できるだけ歯を残したい」という希望は多くあります。
しかし、歯を残すこと自体が治療のゴールではありません。
重度の感染が残った状態で無理に歯を温存すると、さらに歯槽骨が失われたり、隣接する歯に影響したりする可能性があります。
そのため、歯を残すメリットと、感染した歯を残すリスクの両方を考える必要があります。
一方、今回のように状態を評価したうえで温存可能と判断できる症例では、骨欠損や歯肉欠損に対する歯周再建治療が選択肢になることがあります。
治療後のホームケアも重要です
歯周再建治療を行っても、その後に歯垢が蓄積すれば再び歯周病が進行する可能性があります。
そのため、治療後には口腔内の状態に合わせて、
- 毎日の歯磨き
- 定期的な歯科検診
- 歯周ポケットの再評価
- 必要に応じた歯科レントゲン検査
を続けていくことが重要です。
「歯を残せたら終わり」ではなく、その歯を長期的に維持するところまでが歯周治療と考えています。
まとめ|歯周病でも歯を残せる可能性があります
今回の6歳のボストンテリアでは、下顎切歯の歯周病によって歯肉が欠損していました。
飼い主様が歯の温存を希望されたため、状態を評価したうえで骨充填治療と歯肉の再建手術を実施しました。
術後2週間で歯肉の盛り上がりが確認され、1か月後には欠損していた部分にも歯肉が確認できるようになりました。
ただし、すべての重度歯周病で歯を残せるわけではありません。
「犬の前歯がグラグラしている」「歯ぐきが下がって歯根が見えている」「抜歯と言われたけれど、歯を残せる可能性があるか知りたい」という場合には、歯周組織や歯槽骨の状態を詳しく評価したうえで治療方法を検討することが大切です。