犬の鼻水やくしゃみ、実は「歯」が原因のことがあります

「黄色や緑色の膿んだ鼻水が出る」
「最近くしゃみが増えた」
「鼻の治療をしても繰り返す」
犬の鼻水やくしゃみにはさまざまな原因がありますが、特に高齢の小型犬では、重度の歯周病が原因になっていることがあります。
歯周病によって上顎の骨が失われ、口と鼻がつながってしまった状態を口腔鼻腔瘻(こうくうびくうろう)と呼びます。
今回は、膿んだ鼻水とくしゃみを主訴に来院した12歳のトイプードルで、重度歯周病に伴う口腔鼻腔瘻を認めた症例をご紹介します。
症例|12歳トイプードル、膿んだ鼻水とくしゃみで来院
今回来院したのは、12歳のトイプードルです。
主訴は、
- 膿んだ鼻水
- くしゃみ
でした。
口腔内を確認すると、左上顎犬歯をはじめ、複数の歯に動揺を認めました。
歯周病も重度に進行していたため、鼻の症状についても、歯周病から生じた口腔鼻腔瘻の併発を疑いました。

口腔鼻腔瘻とは?
口腔鼻腔瘻とは、その名前の通り、口腔と鼻腔の間に交通ができてしまった状態です。
犬の上顎の歯、特に犬歯の歯根は鼻腔の近くに位置しています。
歯周病が進行すると、歯の周囲の歯槽骨が徐々に失われます。
さらに進行すると、歯の周囲から鼻腔側まで骨が失われ、口の中と鼻の中がつながってしまうことがあります。
これが口腔鼻腔瘻です。
なぜ歯周病で膿んだ鼻水やくしゃみが出るの?
口腔鼻腔瘻が形成されると、口腔内の細菌や食べ物、唾液などが鼻腔側へ入り込む可能性があります。
その結果、鼻腔に炎症が生じ、
- くしゃみ
- 黄色~緑色の鼻水
- 膿のような鼻水
- 鼻を気にする
- 鼻水を繰り返す
といった症状につながることがあります。
そのため、「鼻の症状だから鼻だけの病気」とは限りません。
特に歯周病のある高齢の小型犬で鼻水やくしゃみが続く場合には、歯も原因の一つとして確認することが重要です。
口腔鼻腔瘻は見た目だけでは分からないことも
口腔鼻腔瘻というと、大きな穴が開いている状態を想像するかもしれません。
しかし実際には、歯と歯ぐきの間から深い歯周ポケットが形成され、外から見ただけでは鼻腔との交通が分かりにくい場合があります。
また、歯石を取るだけでは、歯根周囲の骨がどの程度失われているのかを正確に評価できません。
そこで重要になるのが、歯周プロービングと歯科レントゲン検査です。
全身麻酔下で歯科レントゲン検査
今回の症例では全身麻酔下で口腔内を詳しく評価し、歯科レントゲン検査を行いました。
その結果、診察時に疑われていた左上顎犬歯を含め、重度の歯周病と歯を支える骨の吸収を確認しました。
口腔内の所見と歯科レントゲン検査を合わせ、歯周病に伴う口腔鼻腔瘻として治療を行いました。
【治療前の口腔内写真】
【左上顎犬歯の歯科レントゲン】
ここで大切なのは、歯がグラグラしているかだけで抜歯を判断するのではなく、歯科レントゲンで歯根や周囲の骨まで確認することです。
原因となる歯を抜歯し、口腔鼻腔瘻を縫合
口腔鼻腔瘻では、原因となっている重度歯周病の歯を抜歯するだけではなく、鼻腔と交通している部分を適切に閉鎖することが重要です。
今回も原因となる歯を慎重に抜歯しました。
その後、感染・炎症組織を処置し、口腔と鼻腔の交通部を確認したうえで、歯肉粘膜を用いて閉鎖・縫合しました。
【抜歯後の写真】
【縫合後の写真】
口腔鼻腔瘻では縫合部に強い張力がかかると離開する可能性があるため、周囲の組織を適切に扱い、できるだけ緊張の少ない状態で閉鎖することが重要です。

鼻水だけを治療しても繰り返すことがあります
歯周病が原因となっている場合、抗菌薬などによって一時的に鼻水が改善することがあります。
しかし、原因となる歯周病や口腔鼻腔瘻が残ったままであれば、症状を繰り返す可能性があります。
そのため、慢性的な鼻水やくしゃみでは、「鼻水を止める」だけではなく、「なぜ鼻水が出ているのか」を調べることが大切です。
こんな症状があれば歯のチェックを
特に小型犬や高齢犬で、次のような症状がある場合には口腔内も確認してみましょう。
- 膿のような黄色・緑色の鼻水が出る
- くしゃみを繰り返す
- 鼻水がなかなか治らない
- 抗菌薬を飲むと改善するが、また症状が出る
- 口臭が強い
- 歯石が多い
- 歯がグラグラしている
- 歯ぐきが下がり、歯根が見えている
ただし、鼻水やくしゃみは歯科疾患だけで起こる症状ではありません。鼻腔内疾患など、ほかの原因との鑑別が必要になる場合もあります。
小型犬では歯周病の進行に注意
トイプードルやチワワなどの小型犬では、限られた顎のスペースに多くの歯が並ぶため、歯周病が問題になりやすい傾向があります。
特に上顎犬歯周囲の歯周病は、進行すると今回のような口腔鼻腔瘻につながることがあります。
歯がグラグラするほど進行してからでは、歯を残すことが難しくなる場合があります。
そのため、歯石や歯肉炎の段階から定期的に口腔内を確認し、必要に応じて歯科検査・治療を検討することが大切です。
まとめ|犬の膿んだ鼻水・くしゃみは「歯」も確認を
今回の12歳のトイプードルでは、膿んだ鼻水とくしゃみをきっかけに受診し、左上顎犬歯を含む重度歯周病と口腔鼻腔瘻が認められました。
全身麻酔下で歯科レントゲン検査を行い、原因となる歯を抜歯したうえで、口腔と鼻腔の交通部を閉鎖・縫合しました。
犬の鼻水やくしゃみにはさまざまな原因がありますが、高齢の小型犬では重度歯周病が隠れていることもあります。
「膿んだ鼻水が続いている」
「くしゃみを繰り返している」
「歯石や口臭も気になっている」
という場合には、鼻だけでなく歯や歯ぐきも含めて確認することが重要です。
東京動物皮膚科センター/神宮前動物病院では、歯科レントゲンを用いて歯周病や口腔鼻腔瘻の状態を評価し、症例ごとに必要な歯科治療を検討しています。