【歯科】犬の歯冠吸収病巣

歯科担当の森田です!
今回のコラムでは猫で多い歯冠吸収病巣が犬でも起こるという内容です。
猫の歯冠吸収病巣については過去のコラム「猫の虫歯の治療」シリーズを参照ください。

犬の歯冠吸収病巣とは

「歯冠吸収病巣(しかんきゅうしゅうびょうそう)」――あまり聞き慣れない病名ですが、実は犬にも見られる歯の病気のひとつです。これは歯の表面(エナメル質や象牙質)が徐々に破壊・吸収されていく病変で、人間や猫でも知られている現象です。

一見すると何も問題なさそうな歯が、内側から壊れていくため、発見が遅れることもしばしばあります。

下の写真を見てみましょう。

大臼歯を中心に歯石が沈着していることがわかります。
この症例の歯石を除去し歯科レントゲンを撮影してみると、、

このように、上顎第四前臼歯の歯冠が黒く抜けてしまっていることがわかります。
この症例は歯冠吸収病巣ステージ4c(後述します)として抜歯処置を行いました。

症状と原因

犬は痛みを隠す動物ですが、以下のような行動が見られる場合は注意が必要です:

  • 固いおやつを避ける
  • 片側だけで咀嚼する
  • 歯ブラシに嫌がる様子が強まる
  • 歯の一部がかけている、赤い穴が空いている

実際には肉眼では確認しづらい場合が多く、レントゲン検査が不可欠です。
歯冠吸収の詳しいメカニズムは完全には解明されていませんが、慢性的な炎症や細胞の異常活性(特に破歯細胞〈odontoclast〉の異常)などが関係していると考えられています。高齢の犬や、歯周病のある犬で発生しやすい傾向があります。

治療

吸収された歯は自然には戻らないため、進行度によって抜歯が選択されることが一般的です。
痛みや感染のリスクが高いため、放置すると食欲低下や顎の痛み、二次的な膿瘍などを引き起こす恐れがあります。

また、早期に見つけて対応すれば、愛犬の負担を最小限に抑えることができます。
この病気は外から見てわからないことが多いため、歯科健診とレントゲン検査がとても重要です。全身麻酔下での口腔検査には不安を感じる飼い主さまもいらっしゃいますが、歯の健康を守るためには欠かせません

歯冠吸収病巣のステージ分類(AVDC:アメリカ獣医歯科学会)

ステージ特徴飼い主向けの解説
ステージ 1歯の表面(エナメル質)のごく一部が吸収されている。X線上でわずかな変化。肉眼ではまず見つけられない。痛みもほとんどない段階。経過観察になることも。
ステージ 2吸収が象牙質まで進行。ただし歯髄(神経)までは到達していない。外から見ても変化は分かりにくいが、冷たい物や噛むことへの反応が出ることがある。治療介入を検討。
ステージ 3吸収が歯髄に達する。内部の神経や血管も影響を受けている。痛みが明確になる。食欲低下や咀嚼の偏りが見られることも。通常は抜歯対象。
ステージ 4歯の構造の大部分が破壊されている。
4a:歯冠と歯根が同程度に破壊
4b:歯冠の破壊が優位
4c:歯根の破壊が優位
歯が欠けていたり、穴があいているように見えることも。症状が進行しやすく、感染や膿瘍のリスクも。基本的に抜歯が推奨。
ステージ 5歯冠は消失し、歯根が歯肉や骨と癒合(アンキローシス)している。肉眼では歯がなくなって見える。レントゲン上で骨と癒着していることがわかる。処置の必要がない場合もあるが、場合によっては外科的に除去が必要。

まとめ

犬も高齢になるにつれて、見た目だけではわからない「歯の病気」に悩まされることがあります。歯は健康寿命を大きく左右する臓器のひとつ。毎日のケアと定期検診で、愛犬の快適な生活を支えてあげましょう。

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