猫に虫歯はあるの?

「猫にも虫歯ってあるの?」
「よだれが増えてきた」
「片側でしかご飯を食べない」
このような症状から「虫歯では?」と思われる飼い主様も多くいらっしゃいます。
しかし、猫では人のような虫歯(う蝕)は非常にまれです。
その代わり、猫に非常に多い歯の病気として吸収病巣(破歯細胞性吸収病巣:Tooth Resorption:TR/FORL)があります。
今回は、よだれが増えたことをきっかけに吸収病巣が見つかった9歳猫の症例をご紹介します。
症例紹介|9歳 日本猫
今回の患者さんは9歳の猫ちゃんです。
飼い主様は、
- よだれが増えた
- 以前より食べ方が気になる
という症状を心配され来院されました。
まずは無麻酔で口腔内を確認したところ、右下顎の大臼歯に吸収病巣を疑う所見を認めました。
見た目だけでは病変の広がりは判断できないため、全身麻酔下で精密検査を行うことになりました。

歯科レントゲンで診断

全身麻酔下で歯科レントゲンを撮影したところ、
- 右下顎大臼歯の歯根に吸収病巣
- 歯の保存が困難なレベルまで病変が進行
していることが分かりました。
このため、同じ麻酔下で抜歯を実施しました。
原因となる歯を抜歯したことで、術後は口の痛みも改善し、よだれも落ち着きました。
吸収病巣(TR・FORL)とは?
吸収病巣とは、歯を作っている硬い組織が破歯細胞によって徐々に溶かされてしまう病気です。
特に5歳以上の猫で多くみられ、発生率は非常に高いことが知られています。
進行すると、
- 強い痛み
- よだれ
- 食欲低下
- ご飯を落とす
- 顔を触られるのを嫌がる
などの症状が現れます。
しかし猫は痛みを隠す動物であるため、症状が目立たないことも少なくありません。
進行した見た目は特徴的で、歯に覆い被さるようなピンクの歯肉が認められます。

吸収病巣の分類(ステージ&タイプ)
ステージ分類(AVDC基準)
| ステージ | 吸収の進行度 |
|---|---|
| Stage 1 | 表面のエナメル質・セメント質に限局 |
| Stage 2 | 象牙質まで進行、歯髄は温存 |
| Stage 3 | 吸収が歯髄まで到達 |
| Stage 4a-c | 歯冠と歯根の大部分に吸収あり(a〜cは歯冠/歯根の残存比率で分類) |
| Stage 5 | 歯冠が完全に消失し、歯根も吸収され始めている |
現在は歯科レントゲン所見をもとに分類し、治療法を決定します。
| タイプ | 特徴 | 治療法 |
|---|---|---|
| Type1 | 歯冠・歯頸部に限局、歯根が明瞭 | 抜歯 |
| Type2 | 歯根が骨に吸収され融合 | 歯冠切除 |
| Type3 | 両者の混在 | 部分的に抜歯+冠切除 |
早期発見であれば、処置の負担も最小限に抑えることができます。
なぜ歯科レントゲンが必要なの?
吸収病巣は、歯ぐきの下や歯根から進行する病気です。
そのため、
- 見た目では正常に見える
- 少し歯石が付いているだけに見える
という歯でも、レントゲンでは重度に吸収されていることがあります。
逆に、見た目では大きく壊れていても、歯根の状態によって治療法は変わります。
どの歯を残せるのか、どの歯を抜歯するべきなのかは歯科レントゲンを撮影しなければ判断できません。
治療方法
現在、吸収病巣を治す薬はありません。
痛みの原因となる歯は、
- 抜歯
- 症例によっては歯冠切除
が治療の中心になります。
適切な治療によって、多くの猫で食欲や生活の質(QOL)の改善が期待できます。
「虫歯だと思っていた」が実は吸収病巣ということも
猫では「歯が黒くなっている」「穴が開いている」ように見えても、虫歯ではなく吸収病巣であることがほとんどです。
そのため、
- よだれが増えた
- ご飯を食べにくそう
- 口臭が強い
- 歯が欠けたように見える
といった症状がある場合は、早めに歯科検査を受けることをおすすめします。
まとめ
猫では人のような虫歯は非常にまれで、代わりに吸収病巣(TR・FORL)が多くみられます。
今回の症例でも、無麻酔での口腔内検査で異常を疑い、全身麻酔下の歯科レントゲンによって吸収病巣を診断し、同時に抜歯を行いました。
吸収病巣は見た目だけでは診断できないことも多く、歯科レントゲンが診断と治療方針の決定に欠かせません。
「最近よだれが増えた」「猫に虫歯ができたかもしれない」と感じたら、実は吸収病巣が隠れている可能性があります。
当院では、歯科専任獣医師による精密検査と歯科レントゲンを用いた診断を行い、一頭一頭に適した治療をご提案しています。