~PSPP分類から考える、本当の原因~
こんにちは。東京動物皮膚科センターの馬場です。
前回は、外耳炎とはどのような病気なのかについてお話ししました。
「耳をかいている」「耳が臭う」「頭をよく振る」といった症状がみられたら、できるだけ早く治療を始めることが大切でした。
今回は、多くの飼い主さんからご相談いただく、
「どうして外耳炎は何度も繰り返すのでしょうか?」という疑問について解説します。
「薬を使えば一度は良くなるけれど、しばらくするとまた悪くなる。」
このような経験をされた方は少なくありません。
実は、外耳炎は単純な細菌感染ではなく、さまざまな要因が重なって起こる病気だからです。
外耳炎は「炎症」と「感染」が混ざった病気です
外耳炎というと、「細菌が悪さをしている病気」というイメージを持たれることがあります。
確かに外耳炎では細菌やマラセチア(酵母)が増えていることが多く、抗菌薬や抗真菌薬が必要になることも少なくありません。
しかし、多くの場合、それらは最初の原因ではありません。
例えば、アレルギーによって耳に炎症が起こると、耳の中は湿度が高くなり、耳垢も増えます。すると、本来は少数しか存在しない細菌やマラセチアが増殖し、さらに炎症が悪化してしまいます。
つまり、
「耳が炎症を起こした結果として、細菌やマラセチアが増えてくる」
という流れが、多くの外耳炎で起こっています。
そのため、細菌だけを減らしても、炎症を起こした原因が残っていれば再発を繰り返してしまいます。
外耳炎を理解するための「PSPP分類」
獣医皮膚科では、外耳炎を考える際にPSPP分類という考え方を用います。
これは外耳炎を
- Primary causes(主因)
- Secondary causes(副因)
- Predisposing factors(素因)
- Perpetuating factors(持続因子)
の4つに分けて整理する方法です。
少し難しそうに聞こえますが、
「なぜ外耳炎になったのか」
「なぜ治らないのか」
を考えるための、とても分かりやすい考え方です。

Primary causes(主因)
外耳炎を最初に引き起こした原因
主因とは、
それだけで正常な耳に外耳炎を起こすことができる病気です。
代表的なものとして
- アトピー性皮膚炎
- 食物有害反応
- 耳ダニ
- 異物(ノギなど)
- 角化異常
- 一部の内分泌疾患
などがあります。
犬の外耳炎では、最も多い主因はアレルギーといわれています。つまり、耳に細菌が増えたから外耳炎になったのではなく、アレルギーによって耳が炎症を起こした結果、細菌が増えたというケースが非常に多いのです。
Secondary causes(副因)
炎症を悪化させる二次感染
副因とは、
炎症を起こした耳で増殖し、症状を悪化させるものです。
代表的なのは
- ブドウ球菌などの細菌
- マラセチア
です。
健康な耳にもこれらの微生物は存在しています。
しかし、炎症によって耳の環境が変化すると急激に増殖し、
- 耳垢が増える
- 臭いが強くなる
- 痒みや痛みが悪化する
といった症状を引き起こします。
だからこそ、抗菌薬や抗真菌薬は重要です。
ただし、それだけでは「一時的によくなるだけ」で終わってしまうことがあります。
Predisposing factors(素因)
外耳炎になりやすくする条件
素因とは、
外耳炎が起こりやすくなる体質や環境です。
例えば、
- 垂れ耳
- 耳道内の毛が多い犬
- 耳道が狭い犬種
- 夏場の高温多湿
- 水遊びやシャンプー後の湿気
などがあります。
よく、「垂れ耳だから外耳炎になるんですね。」と言われますが、それだけでは外耳炎にはなりません。
あくまで「外耳炎を起こしやすくする条件」の一つです。
Perpetuating factors(持続因子)
外耳炎を治りにくくする変化
持続因子とは、
一度始まった外耳炎を慢性化させる変化です。
炎症が長期間続くことで、
- 耳道の皮膚が厚くなる
- 耳垢腺が増える
- 耳道が狭くなる
- 軟骨が石灰化する
といった変化が起こります。
このような状態では点耳薬が耳の奥まで届きにくくなり、さらに炎症が続くという悪循環に陥ります。
慢性外耳炎が治りにくいのは、この持続因子が大きく関係しているためです。
外耳炎を治すために本当に大切なこと
PSPP分類から分かるように、外耳炎は一つの原因だけで起こる病気ではありません。
細菌やマラセチアを減らすことは大切ですが、それだけでは十分ではありません。
私たちが診察で考えているのは、
- なぜ外耳炎になったのか(主因)
- 何が症状を悪化させているのか(副因)
- なぜこの子は外耳炎になりやすいのか(素因)
- なぜ治りにくくなっているのか(持続因子)
という4つの視点です。
これらを一つひとつ整理しながら治療することで、再発を繰り返さない外耳炎治療につながります。
当院では
東京動物皮膚科センターでは、耳垢検査だけでなく、耳鏡検査やビデオオトスコープ検査、皮膚の状態やアレルギーの評価も含めて、「なぜ外耳炎になったのか」を総合的に診断しています。
「外耳炎を何度も繰り返す」「薬をやめるとすぐ悪くなる」といった症状でお困りの方は、お気軽にご相談ください。
次回は、「外耳炎は時間との勝負~慢性化すると耳は元に戻らない?~」についてお話しします。