【皮膚】犬の中耳炎について

こんにちは、東京動物皮膚科センターの馬場です。

今回は犬の中耳炎についてです。
「耳をかゆがる」「よく頭を振る」「最近呼んでも反応が鈍い」
そんな様子が見られるとき、もしかすると耳の奥にある“中耳”に問題が起きているかもしれません。

今回は、犬の中耳炎の種類と、まずはなかでも比較的見逃されやすい原発性滲出性中耳炎(PSOM)についてご紹介します。


中耳炎ってどんな病気?

犬の耳は、「外耳」「中耳」「内耳」の3つに分かれています。
中耳炎とは、鼓膜の奥にある「中耳」に炎症や液体のたまりが起こる状態です。


犬の中耳炎には3つのタイプがあります

① 原発性中耳炎

外耳炎や他の病気が原因でない「中耳そのもの」から始まる中耳炎です。
代表的なのが、原発性滲出性中耳炎(PSOM)です。

② 続発性中耳炎

慢性的な外耳炎や耳のトラブルが原因で、鼓膜の奥に炎症が波及するタイプです。
細菌や真菌が中耳に入り込み、治りにくくなることがあります。犬の中耳炎で一番多いのがこれです。

③ 真珠腫性中耳炎

慢性中耳炎や外耳炎が進行し、中耳内で皮膚のかけら(角化物)が袋状に増殖する状態です。
骨を壊すなどの重大な症状を引き起こすこともあります。


原発性滲出性中耳炎(PSOM)ってなに?

PSOMは、中耳に原因不明の粘液(滲出液)がたまってしまう病気です。
鼓膜は破れていないことが多く、外耳道はきれいなこともあり、見逃されやすいのが特徴です。


どんな犬に多いの?

もっともよく知られているのはキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルです。
この犬種では、遺伝的な頭蓋の形や耳管の構造により中耳の換気が悪く、PSOMになりやすいとされています。

そのほか、ボクサー、シー・ズー、ダックスフンド、フレンチ・ブルドッグなどの犬種でも発生が報告されています。


どんな症状が出るの?

PSOMは、症状が軽いときは気づかれにくいのですが、以下のような変化が見られることがあります:

  • 耳を気にする(かく・頭を振る)
  • 耳を触られるのを嫌がる
  • 急に怒りっぽくなる・性格の変化
  • 顔のゆがみ、目の異常(顔面神経の影響)
  • バランスの異常やふらつき
  • 音に反応しにくい(難聴)

どうやって診断するの?

  • ビデオオトスコープ検査(鼓膜が膨らんでいるなどの異常所見)
  • CT検査(中耳の液体貯留を画像で確認)
  • 鼓膜穿刺と中耳洗浄(診断と治療を兼ねて)

外見だけでわからないことも多いため、これらの検査が有用です。


治療法は?

  • 全身麻酔下での鼓膜穿刺・中耳洗浄が基本です。
  • 洗浄後は抗菌薬や消炎薬を必要に応じて使用します。
  • ムコ溶解剤(例:N-アセチルシステイン)が使われることもあります。
  • 鼓膜が再生して再発するケースもあり、定期的な経過観察が大切です。

まとめ

「耳はきれいなのに、何かおかしい…」そんなときは、中耳炎が隠れているかもしれません。
特にキャバリアなどの犬種では、無症状のうちから注意が必要です。

当院では、ビデオオトスコープやCTなどを使って、耳の奥まで丁寧にチェックしています。
気になる症状があれば、ぜひ一度ご相談ください。