結論|高齢犬でも、麻酔を避けることが最善とは限らない

「13歳で低アルブミン。麻酔は大丈夫でしょうか?」
今回紹介させて頂く症例は、13歳ミニチュアダックスフントさんです。
以下のようなお悩みを抱えていました。
・慢性の歯周病
・低アルブミン血症(低Alb)
・くしゃみと鼻水が止まらない
・以前他院で麻酔をかけた際に徐脈になり断念
診断は、両上顎犬歯の歯根膿瘍および口腔鼻腔瘻でした。
結論から言うと、迅速な抜歯と粘膜フラップ縫合が必要な状態でした。
主訴|止まらないくしゃみ・鼻水
飼い主様のお悩みは、
- くしゃみが増えた
- 鼻水が片側から出る
- 口臭が強い
という症状。
診察の結果、両上顎犬歯に歯根膿瘍を認め、口腔鼻腔瘻が形成されていました。
口腔鼻腔瘻とは?


口と鼻が交通してしまう状態です。
歯周病が進行すると、
歯根の感染
→ 骨が溶ける
→ 口と鼻の間に穴があく
という経過をたどります。
放置すると…
・慢性的なくしゃみ
・鼻水(膿性鼻汁)
・食べ物が鼻へ入る
・鼻炎の慢性化
単なる「鼻炎」ではなく、歯が原因の感染症です。
抗生剤によって一時的に症状は抑えられますが、根本改善は困難です。
最大の論点|低アルブミン血症と全身麻酔
今回もっとも慎重に考えたのが、*低アルブミン血症(低Alb)*です。
アルブミンは、
- 血管内の水分保持
- 薬剤の運搬
- 循環安定
に関与します。
低Alb症例で想定される麻酔リスク
① 血圧低下・循環不安定
低アルブミンの症例では、
・血圧が下がりやすい
・循環が不安定になりやすい
印象があります。
そのため、
✔ ドパミン
✔ ノルアドレナリン
などの昇圧剤を事前準備し必要であれば早めに使用しました。
② 末梢循環悪化
また、今回は認められませんでしたが、
頻脈+低血圧
粘膜色不良
末梢循環低下が見られる場合は、
・5%アルブミン製剤
・膠質液
の使用も検討します。
③ 覚醒遅延リスク
アルブミンが少ないと麻酔薬が十分に結合できず
→ 遊離型薬剤が増える
→ 体内に残りやすい
結果として覚醒遅延傾向が出やすくなります。
そのため、
・鎮静薬の過量投与を避ける
・必要最小限のプロトコル
・段階的投与
を意識します。
治療|両上顎犬歯抜歯+粘膜フラップ縫合

今回の症例では、
・両上顎犬歯を抜歯
・瘻孔部を閉鎖する粘膜フラップ縫合
を実施。スピードが重要でした。
また感染源を残すと再感染・再瘻孔の原因になります。
病変をしっかり取り切ることも意識が必要です。
なぜ麻酔を決断したのか?
麻酔のリスクはゼロではありません。
しかし一方で、
・慢性炎症の持続
・鼻腔感染の悪化
・食欲低下
・栄養状態悪化
これらも重大なリスクです。感染を取り除くこと自体が全身状態の改善につながる可能性があります。
術後経過
処置後、
・くしゃみの軽減
・鼻水の減少
・食欲改善
がみられました。
もちろん術後管理と経過観察は継続しています。
まとめ|高齢犬の歯周病と麻酔は“天秤”で考える
✔ 高齢犬でも麻酔が絶対禁忌とは限らない
✔ 低Albでは循環管理と薬剤設計が重要
✔ 口腔鼻腔瘻は放置すると慢性鼻炎化する
✔ 感染源の除去が全身状態改善につながることもある
「高齢だから仕方ない」
ではなく、何が一番リスクなのかを比較することが大切です。
歯科・高齢犬麻酔のご相談について
東京動物皮膚科センター/神宮前動物病院では高齢犬・低アルブミン血症などリスク因子を考慮しながら、歯科治療の選択肢をご説明しています。
「麻酔が怖い」
そのお気持ちは当然です。
ですが、感染を放置するリスクも含めて、一度整理してみることが判断材料になります。