🦷 歯ぐきの“できもの”、それは腫瘍ではなく炎症かもしれません
「うちの子、歯ぐきにできものがあるんです」
そう来院される飼い主さんは少なくありません。
実際に検査をしてみると、腫瘍(がん)ではなく、強い炎症による“増殖性の歯肉炎”ということもしばしばあります。
今回は、5歳のトイプードルに見られたリンパ球・形質細胞性歯肉炎の症例を紹介します。
このコラムを読んで一緒に口の中のできものへの理解を深めていきましょう。
合わせてこちらのコラムもご参照ください「口の中にできたしこりの正体は?〜末梢性歯原性線維腫(良性腫瘍)〜」
🐶 症例紹介:5歳トイプードル、歯ぐきのしこり

飼い主さんが「前歯の横に赤いできものがある」と気づき来院されました。
視診では、上顎の犬歯の歯ぐきに赤く丸い腫瘤状の盛り上がりがあり、出血はないものの軽度の口臭が認められました。
デンタルX線では、歯槽骨の吸収は軽度。
病理検査の結果、「増殖性リンパ球・形質細胞性歯肉炎」と診断されました。
これは、慢性的な刺激や細菌性バイオフィルムに対して免疫細胞が過剰に反応し、
歯肉が厚く盛り上がるタイプの炎症性病変です。
🔬 病理のポイント:免疫反応による“防御性の炎症”
このタイプの炎症では、
- リンパ球:細菌抗原を認識して炎症を持続させる
- 形質細胞:抗体を分泌して細菌を攻撃する
といった免疫細胞が多く存在します。
つまり、「感染を守ろうとした結果、歯肉が過剰に反応してしまった」状態なのです。
放置すると歯肉の増殖が進み、歯周ポケットが深くなって歯周病が悪化することもあります。
💉 治療:炎症コントロールと原因除去が鍵
まず全身麻酔下での歯科処置(COHAT)を実施し、できものの切除生検を行いました。
そして下記の治療を実施しています。
- 歯石除去・ルートプレーニングで炎症源(プラーク・歯石)を徹底除去
- 局所的な歯肉切除で増殖部をトリミング
- 抗菌剤リンスやGSE(グレープフルーツ種子抽出物)洗浄液を使用し、再感染予防
- 歯槽骨融解部位に人工骨とPRFの挿入

治療後は再発もなく、歯のぐら付きなども落ち着いています。
🧠 再発を防ぐためのポイント
リンパ球・形質細胞性歯肉炎は、“歯石だけ取っても再発しやすい”タイプです。
そのため、処置後のホームデンタルケアがとても重要です。
おすすめは:
- できる範囲でのデンタルケア(ブラッシング、歯磨きジェル、飲水に混ぜるタイプのものなど)
- 定期的な歯科健診(3〜6ヶ月ごと)
これらを続けることで、再発率を大きく下げられます。
🏥 当院の取り組み(東京動物皮膚科センター/神宮前動物病院)
当院では、歯科専任の獣医師が在籍し、
・歯肉炎・歯周病の精密検査(歯科X線・プロービング)
・再生療法(PRF・人工骨)
・生活歯髄切断・根管治療
など、歯をできるだけ残す治療にも力を入れています。
また、今回のような「炎症性の歯ぐきのしこり」に対しても、
病理診断を併用し、腫瘍との鑑別を正確に行うことを大切にしています。
🌿 まとめ
犬の歯ぐきに“できもの”ができた場合、
それが歯肉炎による炎症性病変なのか、腫瘍性病変なのかを見極めることが大切です。
見た目だけでは区別が難しいため、早めの受診と検査をおすすめします。
歯科専門診療をご希望の方は、東京動物皮膚科センター/神宮前動物病院までご相談ください。
📞ご予約・お問い合わせ:03-3403-8012(歯科担当:森田)
📍東京都渋谷区神宮前