こんにちは。
東京動物皮膚科センター/神宮前動物病院 歯科診療担当獣医師の森田です。
今回は、犬でとても多い「第四前臼歯(第4P4)」の破折に対して、神経を温存する「生活歯髄切断(Vital Pulp Therapy)」を行った症例をご紹介します。
🦴 犬の歯が欠けるとどうなる?
犬の歯は人と同様、**内部に神経や血管(歯髄)**が通っています。
硬いおもちゃや角のあるものを噛んで、**歯の一部が欠ける「破折」**が起きると、以下の問題が生じます:
- 神経が露出する(露髄)
- 細菌が侵入し、歯髄炎や壊死が起きる
- 根の先端に炎症が波及(根尖性歯周炎)
一方で、露髄を伴わなくても象牙質が露出すれば、知覚過敏や細菌感染のリスクがあるため、早期に対応が必要です。
🔍 今回の症例:左上顎の第四前臼歯が破折
破折が確認されたのは、左上顎の第四前臼歯(P4)。
破折片は一部残っていましたが、X線検査と麻酔下での評価により、神経の状態は良好で、感染も認められませんでした。

🦷 そのため、今回は「生活歯髄切断」により神経の温存を目指す治療を選択しました。
💡 生活歯髄切断とは?
露髄してから48時間以内であり、歯髄の出血が5分以内に止まるなどの条件を満たせば、歯髄を残す治療(生活歯髄切断)が可能です。
【治療の流れ】
- ラバーダムで患部を隔離
- 歯髄の一部を切除し止血を確認
- MTAセメントで封鎖し、歯髄を保護
- 破折片を温存しながらコンポジットレジンで歯冠修復


🧪 MTAセメントとは?
MTA(Mineral Trioxide Aggregate)セメントは、近年の歯内治療で広く用いられている材料です。
- 高い生体親和性
- 歯髄の治癒促進・再生誘導作用
- 強固な封鎖性で細菌侵入を防ぐ
当院でも、安全性と効果の観点から第一選択として使用しています。
🌟 神経を残すメリット
神経(歯髄)を残すことには多くの利点があります:
- 歯の生理的な再生能力の維持
- 歯質の変色を防ぐ
- 根の吸収や破折のリスクを抑える
- 歯周組織へのダメージを最小限にできる
そのため、適応がある場合はなるべく抜髄ではなく生活歯髄切断を優先しています。
✅ まとめ
- 犬の第四前臼歯は非常に破折しやすい部位です
- 欠けた歯は放置せず、露髄の有無を早期に評価しましょう
- 露髄後48時間以内なら、生活歯髄切断で神経を守れる可能性があります
- MTAセメントの使用により、歯髄保存の成功率が向上
📞 ご相談・ご予約はこちら
東京動物皮膚科センター/神宮前動物病院(歯科診療担当:森田)
TEL:03-3403-8012
愛犬の歯が折れてしまったとき、**「神経を残せるかどうか」**は時間との勝負です。
ぜひ早めにご相談ください。