猫の虫歯(破歯細胞性吸収病巣)とは

猫の歯の病気の中でも非常に多いのが、破歯細胞性吸収病巣(Tooth Resorption/TR)、いわゆる猫の虫歯です。
この病気は
- 初期症状が分かりにくい
- 進行すると強い痛みを伴う
- 放置すると歯が溶けて失われる
という特徴があります。
猫の虫歯はどれくらい多い病気?
猫の虫歯(破歯細胞性吸収病巣)は、決して珍しい病気ではありません。
実際、複数の報告で
- 猫全体の約20〜70%が生涯のどこかでTRを発症する
- 年齢とともに発症率は上昇
- 特に中〜高齢猫で多い
とされています。つまり、「猫の歯科疾患の中でも、最も頻度が高い病気のひとつ」と考えられています。
なぜ猫に多いのか?
猫の虫歯(破歯細胞性吸収病巣)の明確な原因は完全には解明されていませんが、次のような要因が関与していると考えられています。
- 歯周炎症や免疫反応
- ウイルス感染(例:猫カリシウイルス感染症)
- 遺伝的要因
- 生活環境や食事の影響
- 外傷
これらの刺激によって破歯細胞(歯を吸収する細胞)が活性化し、歯を溶かしてしまうのではないかと考えられています。
特に、慢性的な炎症や免疫反応の異常が猫の虫歯の進行に関与している可能性が指摘されています。
年齢との関係
TRは若齢猫でも見られますが、年齢とともに発症率が増加する傾向があります。
報告によっては
- 5歳以上の猫で増加傾向
- 10歳以上ではさらに高頻度
とされており、高齢猫の歯科検査では必ず疑うべき病気です。
症状
実際の診療現場では、
- 歯石除去で麻酔をかけたときに偶然見つかる
- 片側だけで噛む
- 歯が折れたように見える
- 歯肉に赤い肉芽が被っている
といった形で見つかるケースが多くあります。また、複数歯で同時に発症していることも珍しくありません。
症例紹介|9歳の猫

主訴は
- 歯石が気になる
- 口臭がある
というものでした。
一見すると、「よくある歯石沈着」に見えました。
しかし診察室で口腔内を詳しく観察すると、左下顎臼歯にピンク色の肉芽組織が歯冠を覆うように存在していました。
これは猫の虫歯(破歯細胞性吸収病巣)に特徴的な所見です。
診断

見た目だけでは判断できないため、歯石除去の治療も兼ねて全身麻酔下で歯科用レントゲン検査を行いました。
すると
- 歯冠が虫食い状に吸収されている
- 吸収が歯髄付近まで及んでいる
ことが確認され、破歯細胞性吸収病巣と診断しました。
破歯細胞性吸収病巣の分類と治療判断
破歯細胞性吸収病巣は吸収のタイプ(Type)と進行度(Stage)で治療方針が変わります。
タイプ分類と治療法
| タイプ | 特徴 | 治療法 |
|---|---|---|
| Type1 | 歯冠・歯頸部に限局、歯根が明瞭 | 抜歯 |
| Type2 | 歯根が骨に吸収され融合 | 歯冠切除 |
| Type3 | 両者の混在 | 部分的に抜歯+歯冠切除 |
ステージ分類(AVDC基準)
| ステージ | 進行度 |
|---|---|
| Stage 1 | 表面のエナメル質・セメント質に限局 |
| Stage 2 | 象牙質まで進行、歯髄は温存 |
| Stage 3 | 吸収が歯髄まで到達 |
| Stage 4a-c | 歯冠と歯根の大部分に吸収あり(a〜cは歯冠/歯根の残存比率で分類) |
| Stage 5 | 歯冠が完全に消失し、歯根も吸収され始めている |
今回の症例は
- Type 3(Type1+2の混在)
- Stage 4b(歯髄・歯根が大きく吸収)
と判断しました。
治療内容|歯冠切除+抜歯
今回の症例では全身麻酔下で
- 歯科レントゲンによる精密診断
- 吸収病巣のタイプ分類
- 歯冠切除と歯槽骨の切削
という精査及び治療を行いました。
猫の虫歯(破歯細胞性吸収病巣)では
- Type1 → 通常の抜歯
- Type2 → 歯冠切除(歯根は自然吸収を待つ)
- Type3 → 併用
という判断が重要になります。
歯石除去だけでは見つからないこともある
今回の症例のように、歯石除去を目的に麻酔をかけた際に破歯細胞性吸収病巣が見つかるケースは非常に多くあります。
猫の虫歯は
- 見た目では分かりにくい
- 歯ぐきの下で進行する
ため、 歯科レントゲン検査が非常に重要です。
まとめ|猫の歯が赤い・溶けている場合は要注意
- 猫の虫歯(破歯細胞性吸収病巣)はよくある病気
- 見た目では判断が難しい
- 歯科レントゲンが診断に必須
- 症状がなくても進行していることがある
「歯石が気になる」という理由での来院でも、思わぬ病気が見つかることがあります。
🏥猫の歯科診療について
東京動物皮膚科センター/神宮前動物病院では
- 歯科用レントゲン
- TRの診断・治療
- 抜歯・歯冠切除
まで対応しています。
「歯石が気になる」
「猫の歯が赤く見える」
といった場合でも、一度詳しく調べてみることが大切です。