【歯科】犬の口の中に腫れ物を見つけたら〜7歳フレンチブルドッグ「棘細胞性エナメル上皮腫」の症例〜

結論|「口の中の腫れ物」は“急ぎつつ慎重に”診断を進めるのが大事

口を開けた犬の写真。

犬の口の中に腫れ物(歯ぐきのしこり・できもの)を見つけたとき、まず大切なのはこの2つです。

  • 早めに診断を進めること(放置しない)
  • 見た目だけで決めつけないこと(良性に見えても要注意)

口腔内の腫瘤は、炎症や歯周病由来のものもあれば、腫瘍性病変のこともあります。
特に腫瘍の場合は、種類によって治療方針が大きく変わるため、「何か」をはっきりさせる検査(画像検査+生検)が重要になります。


犬の「口の中の腫れ物」でよくあるサイン

飼い主さんが気づきやすいのは、こんな変化です。

  • 歯ぐきに“できもの”がある/赤く盛り上がっている
  • 口臭が急に強くなった
  • 片側で噛む、食べづらそう
  • よだれが増えた/血が混じる
  • 口を触られるのを嫌がる
  • 歯がグラついた、位置がズレた気がする
  • くしゃみ・鼻水(上顎側の病変で起こることがあります)

「痛がっていない」ことも多いので、見つけた時点で相談が安心です。


なぜ急ぐ必要がある?口の腫れ物は“骨の中で進む”ことがある

口腔内の腫瘍の中には、表面の盛り上がり以上に、顎の骨の中へじわじわ広がるタイプがあります。
この場合、見た目が小さくても内部で進行していることがあるため、画像検査(歯科レントゲン/CT)が判断材料になります。


診断の基本|歯科レントゲン+生検、必要ならCTまで同日に

口腔内腫瘤の評価は、基本的にこの順番で考えると分かりやすいです。

① 口腔内検査(全身麻酔下が多い)

起きている状態では痛みや抵抗で十分に見られないため、しっかり評価する場合は麻酔下で行うことが多いです。

② 歯科用レントゲン(デンタルX線)

歯科レントゲンの写真比較。左が骨に浸潤した歯の腫瘍、右が正常な歯

 麻酔下で口腔内にフィルムを入れ、以下のポイントを評価します。

  • 歯根の状態
  • 骨吸収(骨が溶ける)
  • 腫瘤が骨に及んでいるか

などを評価します。

③ 切除生検(病理検査)

腫れ物の正体を確定するために重要です。
見た目だけでは腫瘍の種類は確定できません

④ CT検査(必要に応じて)

骨に浸潤した歯の腫瘍のCT画像

歯と顎の骨との関係を3Dで把握することにより

  • 骨の破壊範囲
  • 上顎なら鼻腔への影響
  • 血管への影響
  • 手術範囲の設計

など、治療計画の精度が上がります。

ポイント:状況によっては、麻酔の回数を増やさないために、レントゲン・生検・CTを同日に組み合わせる判断もあります。


【症例紹介】7歳 フレンチブルドッグ

口の中にしこりを認めた犬の口腔写真

診断:左下顎犬歯/左上顎第四前臼歯に「棘細胞性エナメル上皮腫」

主訴は別の診療科でCT撮影をしたところ、「口の中に腫れ物がある」というご相談でした。
口腔内の診察で歯肉の腫瘤を確認し、さらに歯科用レントゲンで骨の変化を評価しました。
切除生検(病理検査)の結果、

  • 左下顎犬歯部
  • 左上顎第四前臼歯部

棘細胞性エナメル上皮腫(Acanthomatous ameloblastoma) を認めました。


棘細胞性エナメル上皮腫とは?

名前が難しいですが、飼い主さん向けにはこう捉えると分かりやすいです。

✅ 特徴(重要)

  • 転移は少ないとされる一方で、局所(顎の骨)へ強く浸潤しやすい腫瘍
  • 見た目よりも骨の中で広がっていることがある
  • 治療では「見えている部分だけ取る」では再発リスクが高い

いわゆる「悪性腫瘍」と同じ意味ではないケースもありますが、“ふるまい(骨への攻撃性)が強い”タイプと理解しておくのが安全です。


治療の考え方|大事なのは「取り残しを減らす」設計

腫瘍のタイプによって治療は変わります。

もし悪性腫瘍が疑われる/確定した場合

  • 拡大切除(広めに取る手術)
  • 放射線治療(部位や状況により選択肢)

などが検討されます。

棘細胞性エナメル上皮腫の場合(一般的な考え方)

  • 骨へ浸潤しやすいので、外科的に十分なマージンを確保した切除が基本として検討されます
  • 手術範囲を決めるためにCTが役立つことがあります
  • 状況により放射線治療が選択肢になることもあります

※実際の治療方針は、腫瘍の範囲・部位・年齢・全身状態を踏まえて相談しながら決めます。


まとめ|犬の口の中の腫れ物は「様子見」より「正体確認」

  • 犬の口の中の腫れ物は、早めに診断を進めることが大切
  • 歯科レントゲン+生検で「何か」を確定し、必要ならCTで範囲を評価
  • 腫瘍の種類によって、手術範囲や放射線治療の要否が変わる
  • 棘細胞性エナメル上皮腫は、転移は少ない一方で局所浸潤が強いため治療設計が重要

「犬の口の中にできものがある」「歯ぐきが腫れている」
そんな時は、判断材料として一度、口腔内の評価を受けることをおすすめします。


🏥歯科・口腔腫瘤のご相談について

東京動物皮膚科センター/神宮前動物病院では、口腔内の腫瘤に対し、状態に応じて歯科レントゲンや病理検査、必要に応じて画像検査を組み合わせた評価をご提案しています。
「急ぐべきか迷う」という段階でも、まずは相談ベースで構いません。