結論|高齢で腎臓病があっても、抜歯が“生活を守る治療”になることがある

「もう13歳だし、腎臓病もある。麻酔は大丈夫でしょうか?」
今回の症例は、慢性腎臓病ステージⅡの13歳猫ちゃんです。
主訴は「口が痛くて食べられない」
診断は歯肉口内炎(FCGS)。内科治療では改善せず、最終的に全臼歯抜歯を選択しました。
このコラムでは、
✔ 麻酔のリスク
✔ 抜歯によって得られるメリット
✔ 抜歯のデメリット
を中心にお話しします。
🩺主訴|口が痛くて食べられない

来院時は
- よだれが増えている
- ドライフードを食べられない
- 食べようとするが途中でやめる
- 体重が減っている
という状態でした。
口腔内を確認すると、奥歯周囲から咽頭部にかけて強い発赤と潰瘍を認めました。
典型的な歯肉口内炎(FCGS)の所見です。
🧬診断|歯肉口内炎(FCGS)
歯肉口内炎は、
- 歯周組織
- 口の奥の粘膜
- 咽頭手前
に強い炎症が起こる病気です。
多くの場合、歯と歯周組織が炎症の引き金になっています。
内科治療(ステロイドなど)で一時的に落ち着くことはありますが、根本改善が難しいケースも少なくありません。
⚖️最大の論点|慢性腎臓病と全身麻酔のリスク
この子は慢性腎臓病ステージⅡ。
飼い主様が最も心配されていたのは「麻酔による腎臓への影響」でした。
麻酔のリスク
- 血圧低下による腎血流の減少
- 脱水の影響
- 代謝・排泄の遅れ
など、高齢猫では特に慎重な麻酔管理が必要です。
食べられない状態が続くリスク
麻酔のリスクがある一方で、口内炎を放置するリスクもあります。
口内炎による慢性的な痛みは、
- 食欲低下
- 体重減少
- 脱水
- 筋肉量低下
を引き起こします。
慢性腎臓病を患う猫ちゃんにとって「食べられない状態」は大きく生活の質に関わってきます。
つまり、この猫ちゃんの治療方針を決定する上で、
麻酔のリスク
vs
食べられないことのリスク
を天秤にかける必要がありました。
🦷治療選択|全臼歯抜歯

最終的に選択したのは全臼歯抜歯(奥歯をすべて抜く手術)です。
炎症の引き金となっている奥歯を除去し、慢性的な痛みの軽減することで日々の食欲を改善することが目的です。
✅抜歯のメリット
- 慢性炎症の軽減
- よだれの減少
- 食欲の改善
- 鎮痛薬依存の減少
- 生活の質(QOL)の向上
実際、術後は徐々に食欲が回復し、よだれも減少しました。
⚠️抜歯のデメリット
- 全身麻酔が必要
- 一時的な術後痛
- 咀嚼能力の低下への不安
「奥歯がなくて食べられるの?」という質問をよくいただきます。
猫はもともと飲み込める大きさにしたら丸呑みする咀嚼様式です。
フードを小さくする・ふやかすことで日常生活は十分可能なケースが多いです。
この猫ちゃんも手術直後から食欲が改善し、カリカリのドライフードを食べられるようになるまで回復してくれました。
手術後は食欲も安定し、心配していた慢性腎臓病も落ち着いています。
🏥麻酔管理について
今回の症例では、
- 事前血液検査
- 腎機能評価
- 点滴管理
- 血圧モニタリング
を徹底し、麻酔時間は必要最小限に抑えました。
高齢=麻酔不可という単純な判断ではなく、個々の状態を評価したうえで判断することが重要です。
🐾まとめ|高齢・腎臓病でも「何もしない」が最善とは限らない
- 口が痛くて食べられない状態は命に関わる
- 麻酔にはリスクがある
- しかし慢性炎症の放置にもリスクがある
- 全臼歯抜歯が生活の質を改善することがある
今回の症例では、抜歯によって食べられる生活を取り戻すことができました。
高齢であっても、腎臓病があっても、「何がその子にとって一番つらいのか」を考えることが大切です。
🏥歯科・口腔疾患のご相談について
**東京動物皮膚科センター/神宮前動物病院**では猫の歯肉口内炎や高齢猫の歯科治療について、麻酔リスクと治療メリットを丁寧にご説明しています。
「高齢だから無理かもしれない」そう感じたときこそ、判断材料として一度ご相談ください。